[偽性低アルドステロン症 I 型 pseudohypoaldosteronism type I ]
■概念
先天的な腎尿細管におけるNa再吸収とK排泄能の低下のため塩類喪失症候群 salt-wasting syndromeをきたすものである。古典的偽性低アルドステロン症 classical pseudohypoaldosteronismとも呼ばれる。
■疫学
散発例もあるが多くは家族発症例で、遺伝形式は常染色体性優性遺伝と常染色体劣性遺伝がある。このことは本症が単一の病因に基づくものではないことを示唆している。1988年の時点で世界で約70例、本邦で9例の報告がある。大多数が生後約7ヶ月以内に発症、性差は男:女=1:1.7である。
■病因
本症の主症状である塩類喪失をきたす病因は単一ではなく、汗中へのNa喪失が主因である例の報告もあるが、本症の大多数の例のNa喪失の原因は尿中へのNa喪失であり、鉱質コルチコイド(アルドステロン)受容体の存在する腎遠位尿細管・集合管が結果としてアルドステロンに不応なためNa再吸収不全をきたし低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシスを呈するものである。Na再吸収不全のため循環血液量は低下し、二次性にレニン・ アンギオテンシン・アルドステロン系が賦活され、高レニン、高アルドステロン血症を呈する。循環血液量低下はプロスタグランジン(PG)産生を刺激、PGは更に糸球体濾過量(GFR)増加、 Na+-K+-ATPase阻害により、Na利尿を増強させる。尿中へのNa喪失の原因として、尿細管 成熟遅延説、近位尿細管障害説は否定的である。本症患者は生後2〜3ヶ月で発症し、発育不全、哺乳力低下、不機嫌、嘔吐、脱水によるショックなどを呈する。鉱質コルチコイドを投与しても症状は改善せず、大量の食塩補給で改善される。1〜3歳までにほとんどの症例で食塩補給不要となるが、尿細管の鉱質コルチコイドに対する不応は持続する。 アルドステロンに対する腎遠位尿細管・集合管の不応の原因として、(1)鉱質コルチコイド受容体異常、(2)鉱質コルチコイド受容体以降の障害、が存在する。(1)を病因とするものとして鉱質コルチコイド受容体の欠損と受容体数の減少が報告されているが、分子生物学的には証明されていない。(2)に関しては、受容体以降の機構として、アルドステロンにより誘導される蛋白により腎遠位尿細管・集合管のアミロライド感受性上皮性ナトリウムチャンネルamiloride-sensitive epithelial Na channel(ENaC)とNa+-K+-ATPaseが活性化され、Na+が尿管 腔より血中へ輸送され、同時にK+が血中より尿管腔へ転送される。したがって、この過程のいずれの部位の障害でも本症を引き起こし得るわけで、最近、常染色体性劣性遺伝を 示す本症の家系でENaCのα、β−サブユニット遺伝子に異常が見出され、発症例はこれらの遺伝子のホモ接合体であり、劣性遺伝形式に合致するものであった。
■予後
病初期の脱水、ショックに対してNaClを含む補液を行い、その後、食塩を経口補充する。電解質異常とアシドーシスが是正されれば、発育、発達の問題はなく、多くの症例で1〜3歳頃には食塩補充が不要となる。 新生児期の診断と治療が遅れるとショックのため死亡する例もある。
[偽性低アルドステロン症 II 型 pseudohypoaldosteronism type II ]
■定義
腎尿細管機能異常により高K血症,高Cl血症性代謝性アシドーシス をきたすが,PHA Iと異なり塩類喪失症状はなく,循環血液量増大による高血圧を呈する疾患である。Gordon症候群ともいう(屈指症,口 蓋裂,内反足の3奇形を主徴とするGordon症候群は別の疾患)。
■疫学
散発例と家族発症例があり,家族発症の遺伝形式は常染色体性優性遺伝である。現在,世界で約50例,本邦では散発1例,家族発症1家系の報告があり,稀な疾患である。本症の発症年齢は小児から成人までと幅広く,PHAIが乳時期発症であることと対照的である。男女比は男: 女≒2:1である。
■病因
本症では糸球濾過率に異常はなく,本症に特徴的な高K血症は,高血圧(循環血液量増大)をもたらす他のイオンの尿細管における一次的な輸送障害に引き続く二次的結果である。更に,体液量増大によりPG (PGE2)産生が低下し,Na利尿を減少させる。本症において循環血液量増大をきたす一次的な尿細管機能異常は単一ではなく(1)遠位尿細管におけるC1イオンに特異的な再吸収亢進,(2)近位尿細管におけるNa 再吸収の亢進,の主として2つの病因があるが,(1)で説明できる例が多い。すなわち,C1‐の再吸収亢進は遠位尿細管におけるK+,H+分泌の駆動カとなる管腔内の電位を低下させ,結果として高K血症,高C1血 性代謝性アシドーシスをきたす。したがって,NaCl負荷ではK利尿は 起こらないが,C1-以外のNa2SO4やNaHCO3負荷でK利尿が起こる。C1‐の再吸収はNa+再吸収を伴うので循環血液量増大とレニン・アンギ オテンシン系の抑制をきたす。本症はC1再吸収を抑制する目的で食塩制限を行うと病態が改善する。また,サイアザイドが著効することから,最近遺伝子構造が決定された遠位尿細管に存在するサイアザ イド感受性Na,C1共輸送体thiazide‐sensitive Na‐Cl cotransporter の機能亢進異常が推定される。本症では,高血圧のほか,アシドーシス,高K血症のため低身長,歯や骨の奇形,精神発達遅延,筋カ低下,周期性四肢麻痺を呈することがある。通常,高K,高Cl,低HCO3‐血症以外の電解質異常を認めない。血漿レニン活性は低いが刺激試験には反応する。血中アルドステロンは抑制と刺激の2つの調節機構のため軽度低下から軽度上昇まで様々である。
■治療・予後
厳重な食塩制限を行った上で,サイアザイド系利尿薬を使用する。重症の高K血症に対してはイオン交換樹脂を使用する。アシドーシスは成長障害をきたすので,年少者にはアルカリ療法を行う。
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班から
偽性低アルドステロン症 研究成果(pdf 23KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
この疾患に関する関連リンク
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班ホームページ
情報提供者
研究班名 内分泌系調査研究班(副腎ホルモン産生異常)
情報見直し日 平成20年5月20日
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