難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

中枢性摂食異常症/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 中枢性摂食異常症とは
 心理的な原因で食に異常をきたす病気で、拒食症と過食症があります。

 拒食症は標準体重の80%以下のやせが3ヶ月以上続き、無月経が起こります。心労などによる一時的な食欲不振と異なって病的な特徴があります。約50%の患者さんがダイエットをきっかけにやせ始めますが、ダイエットの有無にかかわらず、体重が増えることを怖がり、「やせていればなぜか安心」「食べることは罪悪」という考えにとらわれます。小食で、食べても嘔吐をしたり、下剤を使用してまでやせる一方で、飢餓の反動で食べ物に執着する矛盾した行動を伴います。やせているにもかかわらず活動的です。最も特徴的なのは、本人に病気の意識がないことです。やせを治されたくないので、やせていることを認めず、周囲のアドバイスを聞き入れません。体重と食事のこと以外は健康な判断ができるので精神病ではありません。

 過食症は、短時間に大量の食物を衝動的に食べる発作が起こる病気です。健康人のやけ食いや気晴らし食いと異なり、自分で抑制できずに繰り返します。数千キロカロリーの食品を、しかもいつもは避けている甘く脂っこい食品を短時間で食べます、さらに、大食後は後悔や自責に念にさいなまれます。体重は標準体重の85%以上あります。

 拒食症では、少食によってやせている制限型と、飢餓の反動で過食するようになり、やせを維持するために嘔吐や下剤を乱用しているむちゃ食い/排出型があります。後者と過食症の違いは体重です。拒食症と過食症には移行例もあります。

 ※標準体重の計算方法
 身長160cm以上:(身長(cm)−100)×0.9 kg
 身長160〜150cm:(身長(cm)−150)×0.4 + 50 kg
 身長150cm以下:(身長(cm)−100) kg

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 患者数は欧米の先進諸国では1970年代より、日本でも1980年代から増えています。厚生労働省が1993年に200〜300床以上の病院へのアンケートという方法で行った調査では、拒食症は13〜29歳の女性10万人あたりの有病率は14.6〜21.8人でした。しかし、地域の学校を対象に摂食異常調査表によって行った調査ではもっと高率です。たとえば、京都市内の中学、高校、短大、大学生での調査では、拒食症は200〜600人に1人、過食症は50〜350人に1人という結果が得られました。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 いずれも、思春期〜青年期の女性に多い(男性は5%以下)病気です。拒食症の発症年齢は平均17.8歳で、近年、15歳以下の低年齢や30歳以上の高齢の患者さんが増加しています。過食症は拒食症より平均年齢は高く、20歳以上です。技能や職業上の理由で減量を要求されている、モデル、バレーなどのダンサー、スポーツ選手などでは一般人より発病率が高いことが知られています。

 すべてではありませんが、摂食障害の患者さんには似たような特徴があります。「手のかからない良い子」と評され、心配をかけないように振る舞います。まじめですが、他人の評価に過敏で柔軟性に欠け、物事をストレスと受け取りやすく、ためやすいといえます。本人は自覚していませんが、無理をし過ぎたとき、進路などに迷ってどうしてよいかわからない状況の患者さんが多いようです。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 ストレスを適切に処理する能力をコーピングスキルと呼びます。患者さんの発病時のストレスを尋ねると、多くは勉学の過重、スポーツや習い事の負担、進路の失敗、人間関係の悩み、家庭内葛藤、いじめなどです。しかしこれらは思春期に遭遇しやすいことで、周囲の援助を得ながら自力で対処していくものです。思春期にありがちな挫折体験を適切に処理できないときに、自分の体型や体重に強い関心を持ち、ダイエットにのめりこみ、達成感や優越感、周囲の関心を得て、誤った心理的ストレスの代償を得ているとも理解されています。負けず嫌いで完璧主義の人が多いのも特徴で、物事の完全性を求めるあまり挫折感を経験しやすく、それが病気のきっかけになったりします。健康なのに理想が達成されていない自分を許せないのでやせていたいと公言する患者さんもいます。また、自分では解決できない窮状を言葉で表現できず、やせることで無意識に助けを求めているとも解釈できます。これには本人の性格傾向や家庭環境も関係します。先進国で患者数が多いので教育や文化の影響もあります。ストレスによってなぜ胃潰瘍ではなく摂食障害になるのかは、その人の特性と考えられ、遺伝子の解析が行われていますがはっきり原因はわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか
 遺伝はしません。しかし、双生児や姉妹の両者に発病することがあり、性格が似ていることや同一の家庭環境が背景にあるためと考えられています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 拒食症では、無月経や、体重の減少に比例して低血圧、脈拍数の減少、低体温と冷え、背中のうぶ毛の増加、カロチン症(顔、手足のひらが黄色くなる)、便秘、むくみなどが起こります。過食嘔吐していると唾液腺(えら)の腫大や手背の吐きダコが認められます。血液検査では、肝機能障害、白血球減少、貧血、高あるいは低コレステロール血症、電解質異常(低ナトリウム、低カリウム血症)があります。ホルモンの検査では、その臓器は悪くないのに、栄養失調の影響で、甲状腺ホルモン、女性ホルモン、背を伸ばすホルモンが低下します。これらは体重が回復すればすべて改善します。ただし、次の場合は、生命にかかわる危険があるので、入院して治療が必要です。低血糖で意識がなくなる(低血糖性昏睡)、脱水で腎臓の働きが悪くなる(腎不全)、電解質異常(嘔吐や下剤の乱用による低カリウム血症による不整脈)です。また、栄養失調で結核の合併もあります。後遺症になるのは、成長期に発病した場合の身長の伸びが低下による低身長と骨粗鬆症です。過食症では正常体重にため大きな異常を認めないことが多いのですが、嘔吐や下剤乱用では電解質異常や腎機能障害を伴いやすくなります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 拒食症では体重だけ回復させること、過食症では過食や自己嘔吐をしないことが治療目標だと安易にみなされている傾向があります。摂食障害はストレスに対する誤った行動です。ストレスに対して適切に柔軟に対応できるようになれば、食行動の異常は改善するのです。とはいえ、拒食症では、飢餓そのものが心身能力を低下させて、心理的治療の妨げになります。特に、標準体重の70%以下では運動がきつくなり、65%以下では日常生活に支障がでます。胃腸機能も低下して自力で体重を増やすことができず、入院と栄養治療が必要になります。55%以下では重症の合併症を併発しやすくなり、生命危機にも陥ります。ただし、やせたいという患者に体重増加を受け入れさせことは容易ではありません。周囲が、解決する問題は食行動の異常ではなく心理的な問題であることを認識し、食行動の異常を責めず、本人の心身の負担を減らして本音を話せる安心できる療養環境を作り、患者の治りたい気持ちを出させて、協力することが必要です。医療機関では、栄養障害の程度を検査し、医学的アドバイスや栄養指導を行います。そして、本人が受け取るストレスを減らす考え方や、ストレスと感じた場合はそれを食行動の異常ややせで反応しないで適切な方法で解決する行動パターンを学ぶ心理療法を行います。

 過食は有効なストレス発散方法であり、最初から過食だけを止めることは困難です。過食症では、ストレスと受け取りやすくためやすい考え方や物事の認識を変えるようにカウンセリングします。また、自分の適正な体重を受け入れること、過食を誘導しやすい身体的飢餓を予防すること(不規則な食事、過激なダイエット、嘔吐、下剤乱用、過剰な運動をやめる)と過食しやすい生活パターンの修正(夜更かし、孤食、暇を減らす)を指導します。

 薬物は補助的に使用します。月経は体重が標準体重の85%以上に増加して少なくとも6ヶ月以上経過すると起こり始めます。体重が回復すれば、異常妊娠や児の障害を増加させることはありません。体重が回復しても月経が来ない場合、体重の増加が遅延する場合は婦人科的な治療もします。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 経過は患者さんによって異なりますが、体重と月経が回復するには年単位の期間がかかり、ゆっくりした経過の病気です。当研究班の5年後の予後調査では、治癒33%、軽快48%、不変13%で、残念ながら死亡6%でした。死因は衰弱死、自殺、不整脈、感染症などでした。


情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(中枢性摂食異常症)
情報更新日 平成20年10月17日

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