難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

メニエール病/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
フランスの医師Prosper Meniereが、それまでめまいの原因といえば脳卒中といわれていた時代に、めまいが内耳から生じることを初めて提唱した。それにちなんで、内耳性めまいのある種のものを現在メニエール病といっている。メニエール病は病歴と症状で診断される疾患であり、現在のところ診断の決め手になる特定の検査法はない。メニエール病の特徴は、激しい回転性のめまい発作に耳鳴や難聴などの蝸牛症状が随伴し、この発作を反復するものである。

■疫学
下の表に、これまで前庭機能異常調査研究班によって行われた主な調査と、個別調査(特定地区調査)の結果を示した。班員による全国調査は、1975-76年に第一次調査(メニエール病520例)が、1982-84年に第二次調査(メニエール病230例)が、1990年に第三次調査(メニエール病148例)が行われた。第一次は対照群としてメニエール病以外のめまい症例およびめまいのない耳鼻咽喉科疾患症例を、第二次調査では突発性難聴や良性発作性頭位めまい症などを対照として調査が行われたが、第三次調査では性をマッチングさせた症例対照調査(健常、めまい、耳鼻咽喉科疾患)が行われている。メニエール病の性別分布は女性に多く、発症年齢は30歳台後半から40歳台前半にピークを持つ山型である。有病率は主な個別調査では15〜18人/人口10万人であるが、受診圏の限定された地域では25〜38人/10万人と高値を示している。臨床統計システムの確立しているスウェーデンでは46人/10万人との報告がある。

性別
男性 女性
第一次 259(49.9%) 261(50.1%)
第二次 98(42.7%) 132(57.3%)
第三次 63(42.6%) 85(57.4%)
発症年齢 30歳台後半〜40歳台前半にピークを持つ一峰性分布
患者全体の年齢構成はより高齢
地理的分布 北海道、東北に少なく、関西以西に多い傾向(医療機関の偏在、専門的医療機関への患者集中などの影響で正確な評価は不明)
職業 基準人口に対し、専門・技術職では多数、管理、事務、運輸ではほぼ同数、販売、農林漁業で少数
疫学的特徴 家庭内発症: めまい症例、耳鼻科疾患より少数(p<0.05)
既婚者割合: めまい症例、耳鼻科疾患より高い(年齢分布差なし)(p<0.05)
体格分布: めまい症例、耳鼻科疾患、健常者より肥満者の割合が少ない(p<0.05)
性格: 几帳面・神経質と答える割合が高い
発症誘因: 精神的・肉体的疲労、ストレス、睡眠不足(p<0.05:耳鼻科疾患)
発症季節: 季節集積性なし
発症時刻: 活動時間帯に多発、夜間・深夜の発症は少数
気象との関係: 寒冷前線、低気圧、気圧変動
有病率・罹患率(/人口10万人) 有病率:
15〜18 全国調査、相模原、富山、米国
46    スウェーデン
25〜38 新潟県西頸城、岐阜県飛騨

罹患率:
(新潟県西頸城地区)1988-97 平均年間罹患率 3.9

■病因 めまいは、なんら誘因なく突発的に生じるのが特徴である。めまいの性状は、回転性で激しく、一般的には30分位から数時間にわたるめまい発作である。めまい発作中には、自律神経症状として、悪心、嘔吐、冷汗、顔面蒼白、頻脈などを伴うことが多い。メニエール病は、めまい発作に難聴や耳閉塞感、或いは耳鳴などの蝸牛症状を随伴するのが特徴である。蝸牛症状はめまい発作と一致して現れたり悪化したりし、めまいの寛解と共に正常に復したり軽快したりする。めまい発作の始まる前に、蝸牛症状が先行して現れることもしばしばある。難聴の程度は病気の初期には軽度の低音障害型であるが、発作を繰り返しているうちに難聴は高度になり、全周波数にわたって聴力が悪化する。自覚的には、難聴があるにもかかわらず、少し大きな音や高い音が響いて大きく聞こえるようになる(補充現象)。

■診断
メニエール病は次に上げる診断基準によって診断される。

1.  回転性めまい発作を反復すること
1) めまいは一般に特別の誘因なく発来し、嘔気、嘔吐を伴い、数分ないし数時間持続する
2) 発作の中には「回転性」めまいでない場合もある
3) 発作中は水平回旋混合性の自発眼振をみることが多い
4) 反復性の確認されない初回発作では、めまいを伴う突発性難聴と十分鑑別されなければならない

2. 耳鳴、難聴などの蝸牛症状が反復、消長すること
1) 耳鳴、難聴の両方またはいずれかの変動に伴いめまい発作をきたすことが多い
2) 耳閉塞感や強い音に対する過敏性を訴える例も多い
3) 聴力検査では、著明な中・低音部閾値変動や音の大きさの補充現象陽性を呈することが多い
4) 一耳罹患を原則とするが両耳の場合もみられる

3. 1,2 の症候をきたす中枢神経疾患、ならびに原因既知のめまい、難聴を主訴とする疾患が除外できる。これらの疾患を除外するためには、問診、一般神経学的検査、平衡機能検査、聴力検査などを含む専門的な臨床検査を行い、ときには経過観察が必要な場合もある。

<診断基準>
確実例:1,2,3の全条件を満たすもの
疑い例:1と3 または2と3の条件を満たすもの

■治療
薬物による治療が第一選択になる。メニエール病に対する治療には、病態に対する治療と症状に対する治療(対症療法)がある。めまい発作中の自律神経症状に対して、補液を行い体液のバランスをとる。めまいが強いと恐怖心が起こり、それが自律神経をさらに悪化させることが多い。そのため、メニエール病は生命に別条のない病気であることを話すと同時に安定剤を用いる。また、悪心や嘔吐に対しては、制吐剤を用いる。病態(内リンパ水腫)に対しては、水腫を軽減する薬剤として利尿剤系統の薬物が多く用いられる。中でも、イソソルビドは一般に広く用いられている。また、内耳感覚細胞や内耳神経の活動を正常化させる目的で、ビタミン剤や末梢血流改善剤などが用いられる。一方、薬物治療でめまい発作が制御できず社会生活に支障をきたすような場合や、聴力悪化傾向の強い場合には外科的療法が用いられる。現在最も広く行われているメニエール病手術は、内リンパ嚢減荷術である。

■予後
メニエール病は内耳の病気なので、生命に危険をおよぼすことはない。病気が完成しないうちに、早期の診断と治療を始めることによってメニエール病の進行をくい止め、または治癒させることが可能と考えられる。しかし、病気が完成してしまうと、めまいと難聴との悪化と軽快を繰り返し、平衡障害や難聴が進行し不可逆性になる。また、めまい発作や難聴の悪化・寛解を繰り返すうちに、反対側の聴力も悪化することもあり(両側メニエール病)注意が必要である。


前庭機能異常に関する調査研究班から
研究成果(pdf 24KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 聴覚・平衡機能系疾患調査研究班(前庭機能異常)
情報更新日 平成19年7月13日

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