■概念
SLEなどの膠原病や各種臓器移植後において、ステロイド剤の大量投与に関連して起こる病気です。多くは大腿骨頭に壊死が生じますが、上腕大腿骨頭や、大腿骨遠位端、脛骨近位端などにもでることがあります。全身性ステロイド大量投与に伴う骨壊死症は、ステロイドと壊死の因果関係がまだ明確でないことから特発性に分類されている。治療は長期間に及ぶことがあり、医療経済学的に問題が大きい。また、青・壮年期に好発して労働能力を著しく低下させることから労働経済学的にも大きな損失を生じる。患者のQOLに大きな影響を与えるため、早期に適切な診断を行い、効果的な治療へと結びつけていく必要がある。
本稿では特発性ステロイド性骨壊死症のうち、もっとも問題となる特発性ステロイド性大腿骨頭壊死症について述べる。
■疫学
2005年度に行った全国疫学調査で、2004年1年間の受療患者数は11400人、男女比は5:4、年間新患数は2220人と推定された。確定診断時年齢のピークは男性では40代、女性では30代であった。背景因子は「ステロイド全身投与歴あり」が51%、「アルコール愛飲歴あり」が31%、「両方あり」が3%、「両方なし」が15%であった。「両方あり」を含めると、ステロイド関連は54%と過半数を占めた。ステロイド全身投与の対象となった基礎疾患は、SLEが31%と最多であった。
■病因
病因として、酸化ストレスや血管内皮機能障害、血液凝固能亢進、脂質代謝異常、脂肪塞栓、骨細胞のアポトーシスなどの関与が指摘されている。これらのなかで、最新の研究成果として血管内皮細胞の機能障害が注目されており、ステロイドが血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することや、eNOS発現を抑制してNO bioavailabilityを低下させ、その結果血管内皮機能が低下することが報告されている。しかし、本疾患発生に至る一義的原因としての十分な科学的根拠までは得られていないのが現状であり、動物モデルを用いた基礎的研究や臓器移植症例を対象とした臨床的病態解析が続けられている。
■症状
発生しただけの時点では自覚症状はない。自覚症状は大腿骨頭の圧潰が生じたときに出現し、この時点が大腿骨頭壊死症の発症である。大腿骨頭壊死症の発生と発症の間には数ヵ月から数年の時間差があることを十分に認識すべきである。
自覚症状としては、急に生じる股関節部痛が特徴的であるが、股関節周辺には自覚症状がなく、腰痛、膝部痛、殿部痛などで初発する場合もあるので注意が必要である。また、初期の疼痛は安静により2〜3週で消退することが多いことや、再び増強したときにはすでに大腿骨頭の圧潰が進行していることも知っておくべきである。大腿骨頭が圧潰しても股関節の可動域は末期まで比較的保たれることが多く、徒手検査で得られる情報量は少ないことも注意すべき点である。ステロイド大量投与歴のある患者がこれらの症状を訴えた場合は、まず本症を念頭に置いてMRIを撮像することが望ましい。
■治療
治療法の選択には、患者背景(年齢、内科的合併症、職業、活動性、片側性か両側性か)、病型分類や病期分類を考慮する。
(1)保存療法
病型分類で予後がよいと判断できる症例や症状が発症していない症例は保存療法の適応である。関節症性変化が進むまで可動域は比較的保たれるため、積極的な可動域訓練は必要ない場合が多く、疼痛が強い時期にはリハビリテーション的アプローチより安静を指示すべきである。杖などによる免荷が基本となり、体重維持、長距離歩行の制限、重量物の運搬禁止などの生活指導を行う。疼痛に対しては鎮痛消炎剤の投与で対処する。しかしながら、これらの方法では圧潰の進行防止は大きく期待できないため、圧潰進行が危惧される病型では骨頭温存のための手術療法の時機を逸しないことが重要である。
(2)手術療法
症状があり圧潰の進行が予想されるときは速やかに手術適応を決定する。若年者においては骨切り術を主とした関節温存手術が第一選択となるが、壊死範囲の大きい場合や骨頭圧潰が進んだ症例では関節置換術が必要となることもある。
A.骨頭穿孔術(core decompression)
骨髄内圧を減少させることにより、疼痛などの症状の軽減が得られる。しかし、最終的な骨頭の圧潰を防ぐことはできず、time saving operationの位置づけである。欧米では比較的多く行われているが、本邦では骨生検が必要な場合以外にはあまり用いられない。
B.内反あるいは外反骨切り術
転子部で内反あるいは外反させることで壊死部が荷重部からはずれるときに適応がある。大腿骨頭壊死症の場合は内反が適応となることがほとんどで、転子間弯曲内反骨切り術では大転子高位や骨癒合不全などの合併症が少ないとされている。
C.大腿骨頭回転骨切り術
大腿骨頚部軸を回転軸として大腿骨頭を前方あるいは後方に回転させることで壊死部を荷重部から外し、健常部を新しい荷重部とする方法である。また、同時に大腿骨頭を内反させることにより、寛骨臼荷重部に対する健常部の占める割合をさらに増やすことができる。
壊死部は大腿骨頭の前内方に位置することが多いため、前方回転で対処することが多いが、壊死部が後方にある場合は前方の健常部を利用するため、後方回転が必要となる。大腿骨頭栄養血管の解剖学的位置関係から、後方回転の方が回転角度の許容性が大きい。
D.骨移植術
骨移植術には骨壊死巣を掻爬して海綿骨を充填する方法、遊離皮質骨移植(腓骨、腸骨、脛骨など)、血管柄付き骨移植術(腓骨、腸骨)などがある。しかしながら、圧潰を防止しうるだけの十分な骨強度が得られるのかについては論議のあるところである。健常部の更なる獲得を目指し血管柄付き骨移植術と回転骨切り術との併用も報告されているが、手術侵襲は大きなものとなる。
E.人工骨頭および人工関節置換術
圧潰による関節変形が進行した場合や壊死領域が大きい場合は人工骨頭置換術や人工股関節全置換術の適応である。若年者への人工骨頭や人工関節置換術の適応には慎重でなければならない。
F.関節固定術
若年者で活動性が高く、片側性の場合に考慮される。
■予後
壊死領域の大きさと位置により、大腿骨頭の圧潰が将来発生するかどうかはほぼ予測できる。ごく小範囲の壊死であれば自然消退する場合があることが報告されている。壊死領域が小さく、荷重部を避けて存在する場合は無症状で経過できる可能性が高い。壊死領域が比較的大きくても、関節温存手術のよい適応となる範囲であれば、術後は良好な予後が期待できる。関節温存手術を行う際には、手術時機を逸しないことが重要である。荷重部に広範な壊死が存在している場合には、骨頭温存手術は困難であるが、疼痛と可動域制限を伴う二次性股関節症へ進展した場合は人工物置換術を行うことによって良好な予後が得られる。
特発性大腿骨頭壊死症に関する調査研究班から
研究成果(pdf 178KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
情報提供者
研究班名 骨・関節系疾患調査研究班(特発性大腿骨頭壊死症)
情報見直し日 平成20年4月28日
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