難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

進行性多巣性白質脳症(PML)/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
ヒト脳の脱髄性疾患である進行性多巣性白質脳症progressive multifocal leukoencephalopathy(PML)はÅstromeら(1958)により慢性リンパ性白血病とホジキン病の患者の脳に生じる稀な脱髄疾患として報告され,電顕的にZuRhein and Chou(1965)によりウイルス感染を指摘されていた疾患であるが,Padgettら(1971)によりウイルス が分離され,PMLがウイルス感染症であることが確立した。分離されたウイルスはその患者のイニシアルをとってJCウイルスと命名された。 PMLは、潜伏感染していたJCウイルスが免疫不全状態にある患者の脳内で活性化されて初めて病原性を現す稀な疾患であるが,JCウイルスは広くヒトに浸淫しており,子どもの頃に無症候性感染を受け,成人の70%はこのウイルスの抗体を保有していることが判明している。 PMLの原因としてSV40も候補としてあげられていたが,最近の分子生物学的手法を用いたウイルス・ゲノムの解析の結果SV40の関与は否定され、すべてJCウイルスと訂正されている。

発病すると進行性経過,致死的転帰をとる。現在これを治癒せしめる 治療法はない。エイズにおいてはPMLの発生率が高い。

■疫学
稀な疾患であると考えられてきた。1990年までに日本で32例の報告があった。剖検例は1962〜1992年に日本で24例が報告された。報告数からみて対人口の発生率は,日本や欧米を含めた先進国では1、000万人当たり1〜11人と推定されてきた。中高年齢者層に多く発病するといわれているが、若年成人に もみられる。男女比は1.5:1位でやや男性が多い。特にエイズにおいては小児例も認められる。

JCウイルスの感染は生後6カ月にはほとんど0%であるが,生後10年間に血清中の抗体保有率からみて小児人口の3分の2,成人では人口の4分の3に感染が起こっている。PCR法によって,非PML患者の尿や脳にもかなりしばしばJCウイルスのゲノム塩基配列が証明されるようになった。したがって,潜伏感染しているウイルスが,宿主個体の免疫能不全により再活性化され,一部のものにPMLを起こしてくると考えられる。

■病因
潜伏感染していたJCウイルス(再)活性化によって起こる。JCウイルスが感染した宿主個体の臓器組織(腎,Bリンパ球,脳など)に潜伏し,何らかの理由で免疫能不全状態が起こったときに(再)活性化し,脳内で増殖してPMLを起こすと考えられる。脳内でJCウイルス が増殖する細胞は乏突起膠細胞であり,このため脱髄が起こる。このようにPMLは,遅発性ウイルス感染の形をとるJCウイルス脳感染症である。エイズに伴うPMLを除き,炎症反応は脳に通常みられない。

JCウイルス再活性化の引き金になる免疫不全状態は,本邦ではリンパ球系増殖性疾患(慢性リンパ性白血病,ホジキン病,ATL,その他の白血病など)とならんでSLE,結核,異常蛋白血症などに伴う免疫不全症が多く,含まれている。基礎疾患のない者も少数ある。

■症状
病期は脳の局所症状が現れている時期と,病巣が多発化して臥床状態になった時期とに区別される。

初発症状は片麻痺,知能障害,視カ障害,意識障害,言語障害,性格変化・行動異常,歩行痙攣,情動障害,顔面筋麻痺,頭痛,めまいなど大脳症状が中心で,初め限局性の症状が徐々に拡大する。髄膜刺激症状や発熱などの炎症症状はなく,小脳,脳幹症状は比較的少ない。しかし,小脳症状で初発し,小脳,脳幹の重い障害を主とした例も報告されている。

経過中にみられる主要症候としては片麻痺又は四肢麻痺,知能低下,意識障害,顔面筋麻痺,嚥下障害,構音障害,尿失禁,失語,失認,半盲,痙攣,視神経萎縮,失行,Balint症候群,知覚障害,Gerstmann症候群,情動障害,小脳失調などである。

軽度の蛋白増量をみる以外,髄液に著変はない。頭部X線CTでは, 造影効果を伴わない非対称性の白質の低吸収域がみられるが,mass effectや造影剤による増強効果は伴わない。MRIではT2強調画像で大脳白質に境界鮮明な巣状高信号域がみられる。病巣の範囲は特定の血管支配領域に一致しない。

■診断基準


進行性多巣性白質脳症(PML)の診断基準(厚生労働省班会議,2004)


Definite PML:下記基準項目の5を満たす。
Probable PML:下記基準項目の1,2,3および4を満たす
Possible PML:下記基準項目の1,2および3を満たす

1.成人発症の数ヶ月で無動性無言状態に至る亜急性進行性の脳症(1)
2.脳MRI/CTで、白質に脳浮腫を伴わない大小不同、融合性の病変が散在(2)
3.白質脳症をきたす他疾患を臨床的に除外できる(3)
4.脳脊髄液からPCRでJCV DNAが検出(4)
5.剖検または生検で脳に特徴的病理所見(5)とJCV感染(6)を証明



(1)免疫不全(AIDS,抗癌剤・免疫抑制剤投与など)の患者に後発し、AIDSでは小児期発症もある。発熱・髄液細胞増加などの炎症反応は欠き、記銘力障害、同名半盲、失語、片麻痺など多彩な神経症候を呈することが特徴である。

(2)病巣の検出にはMRI T2強調像が最も有用であり、高信号として描出される。病巣は脳皮質下白質に好発し、皮髄境界まで病変が及ぶと特徴的な帆立貝様の形状を呈する。造影剤増強効果は陰性を原則とするが、病巣辺縁に弱く認めることもある。MRI拡散強調画像は早期の病変を検出しえるので診断に有用である。

(3)白質脳症としては副腎白質ジストロフィーなどの代謝疾患やヒト免疫不全症ウイルス(HIV)脳症、サイドメガロウイルス(CMV)脳炎などがある。しかしAIDSなどPMLがよくみられる病態にはしばしばHIV脳症やCMV脳炎などが合併する。

(4)病初期には陰性のことがある。経過とともに陽性率が高くなるので、PMLの疑いが強ければ再検査する。

(5)脱髄巣、ヘマトキシリンに濃染する腫大した核を有する細胞の存在、アストログリアの反応、マクロファージ・ミクログリアの出現。

(6)JCV蛋白またはmRNAの証明、多量のウイルス核酸の証明、電顕によるウイルス粒子の同定、など。

PCR: polymerase chain reaction

■治療
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業プリオン病および遅発性ウイルス感染症に関する研究班で作成した診療指針のチャートを以下に示す。詳しくは診療ガイドラインを参照のこと。

PMLの治療指針(図)

■予後
 pre-AIDS時代では発症後3-6ヶ月で死亡することが多かったが、稀に数年間生存する例も報告されてきた。
 非HIV PMLに関しては誘引となる免疫力を低下させる薬剤の投与中止または治療薬による効果は一定ではなく生命予後は不良である。
 HIV関連PMLに関してはHAART療法導入後、数年間の生存、神経症状の改善を見ることも稀ではなくなった。しかしHAART療法に対する反応は均一ではなく治療効果が見られない例もある。


プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班から
進行性多巣性白質脳症(PML) 研究成果(pdf 20KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

この疾患に関する関連リンク
PMLについて(研究班ホームページ)

情報提供者
研究班名 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
情報見直し日 平成20年5月7日

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