特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(二十四)将来のこと
「ただいま!」
真樹が声を掛けると、いそいそと母親が玄関に出迎えた。
今日は、敬を連れてくると伝えてあったからだ。
「お帰りなさい、真樹」
「お母さん、紹介するわ。こちらは沢渡敬」
「はじめまして、真樹さんと交際させていただいてます、沢渡敬です」
きっちりとした態度で挨拶する敬だった。
「これはこれは、うちの真樹がお世話になってるそうで」
「お母さん、立ち話もなんだから、上がってもらいましょう」
「そうだね」
というわけで、応接室に案内され、積もる話などいろいろと話しあう三人だった。
敬を見送った後で、応接室に戻る真樹と母親。
「いい人じゃない」
「でしょ」
「結婚するのかい?」
「うん」
「そうなの……お父さんはどうかしらね」
「それよ! どうして、出かけちゃったの? 敬を連れてくるから会って欲しいって
言っておいたのに」
「やはり父親ですからねえ。娘の彼氏に会うのは勇気がいるわけよ」
「勇気がいったのは敬のほうよ」
「そうだよねえ。敬さんの方が、何倍も勇気が必要だったよね。会社から電話が掛っ
てきて、なんやかんやと理由をつけて出掛けてしまわれたよ」
「もう……しようがないお父さんね」
「会えるまで、何度も訪ねてきますよって敬さんは笑って言ってくれたわね」
「そりゃそうでしょ。ちゃんと会って結婚の承諾を取り付けるつもりなんだから」
「やっぱり警察官というのに、こだわっているのかも知れないしね」
「警察官じゃだめですか?」
「うーん。ほら、殉職とかあるじゃない。それを気にしていると思うの。承諾に踏み
切れない状態なら、会わないほうが良いと思ってるのかも知れないわね」
「そんなこと……どんな職業だって、例えばタクシーの運転手とか、気を許せば死に
至るようなことは、どこにでもあるじゃないですか。警察官だけのことじゃないと思
いますけど」
「まあ、それはそうなんだけどね」
「とにかく一度会ってもらわくちゃ、話になりませんわね」
「そうね……」
「それで肝心なことなんだけど……」
「なに?」
「結婚したら、うちの家に来てもらえないかなと思ってねえ。ここ、夫婦二人で暮ら
すには広すぎるんだよね。もし敬さんさえ、良かったらだけど」
「相談してみます。わたしも親孝行がしたいですし」
「そうしてくれるとありがたいわ」
母親は、すでに真樹と敬が結婚することを、前提として話を進めているようであっ
た。
世の常として、娘の結婚に肯定的なのは母親であり、否定的なのが父親であるとい
うことである。
自分が腹を痛めて産んだ娘であり、初めて生理がおとずれて、手当ての仕方や女の
身体の仕組みなどをやさしく教えた同性の先輩としての思い入れもある。
もっとも正確には、真樹はこの母親の娘ではないが、自分が産んだ子供は正真正銘、
この母親の孫である。
「早く孫が見たいんだけどねえ……」
それは母親の正直な気持ちなのであろう。
真樹としてもその方が話しやすかった。
「孫と一緒に暮らせるといいですね」
「父親があれじゃ、いつのことになるやね」
「そうですね」