純愛・郁よ 後編
(十四)酒盛り
無事退院した俺と郁は、双方の両親に結婚の承諾を受けるために、実家に帰る事に
した。
インターネットで、実家のある駅近くで二十四時間営業で0歳から預かってくれる
託児所を探し出して、二泊三日の予約を入れていた。茜には可哀想だが、少しの辛抱
だ。時間を見つけては郁が会いにいくことになってる。ま、俺が行っても泣くだけだ。
まずは郁の両親からだ。こっちの方が簡単なので先にやってしまおうというわけだ。
盆と正月には、必ず郁と一緒に訪れているから、家族扱いで温かく迎えてくれる。
郁を連れて東京へ行ってしまったので、迷惑を掛けてしまって済まない気分で、あま
り行く気がしないのだが、郁が帰りたがるだろうと思い毎年帰郷しているのだ。そし
て郁が結核になった時には毎週だ。帰省費用は母親が出してくれていた。
「武司君、本当に郁をもらってくれるのかい? 知っての通り、郁は元々男の子だっ
たんだよ」
「でも、今は立派な女性です。関係ありません」
「まあ、結婚してくれるのはいいとして、後で別れるというような事があっては困る
んだ。どうやら郁は君なしでは生きてはいけない」
「はい。もう五年以上も夫婦として暮らしていますから大丈夫ですよ」
「ああ、そうだな」
「……そもそも郁さんが性転換したのは、僕のせいですから」
「その事なら、君が責任を感じる事はないよ。どうあろうと、決断したのは郁自身な
んだからね。君がいてもいなくても、いずれは手術を受けたとおもう。それが早まっ
ただけだ」
そもそも母親は、女の子が欲しかったらしくて、生まれたのが男なのにも関わらず
に、郁という女の子の名前をつけてしまったのだ。だから、郁が性転換して女性とし
て俺と結婚する事には大賛成していた。ウエディングドレス姿の郁が見られると大喜
びしている。
取り敢えず、長時間電車を乗り継いで疲れているので、その実家に泊まることにな
った。
……のだが。いきなり酒盛りがはじまってしまった。
郁の兄弟や親類縁者も交え、さらには話しを聞きつけたご近所さんまで、酒・肴持
参で加わった。
郁の方はと見ると、酒の肴の用意に忙しく、母親と一緒に台所と宴席をいったりき
たりしている。
「郁、料理が巧くなったね」
「うん。もう五年も武司の奥さんやってるもん」
「幸せ?」
「もちろん」
「良かったわ。結核も治ったしね」
「うん。武司が毎週会いに来てくれたから元気になったんだ」
「そうだね。感謝しなくちゃ」
そんな会話が聞こえてくる。
どんちゃん騒ぎは夜明け近くまで延々と続いた。
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