妻に変身した男の話(1)
深夜のとある森の奥深く。
誰も通らない林道に、RV車が止まっている。
と、どこからか響いてくる、土を掘るような音。
茂みの中で無心に土を掘っている男がいる。
かなり深い穴が出来上がっていたが、それでも念入りに掘り進めている。
側には、野営用のシュラーフが横たえてあり、中が膨らんでいる。
「これくらいでいいか……」
男は穴を掘るのを止めて、一息ついた。
そしてシュラーフに目をやった。
その中には、別荘で殺してしまった妻の遺体が入っている。
証拠隠滅のために、誰にも見つからないように、ここまで運んできたのである。
男はシュラーフを引きずって穴の中に放り込もうとしたが、ふと考え直した。
「まてよ。素っ裸にした方がいいかな……」
証拠隠滅には、遺体が速やかに白骨化してくれた方が良いに決まっている。
それに妻は、結構ブランド物の衣類を着ている。
ブランドを扱う店は数が限られてくるから、顧客名簿などによって身元が判明するかも
知れない。
そうなればまず最初に疑われるのは自分である。
男は、妻をシュラーフから出し、衣類を脱がしに掛かった。
夫として夜の営みにおいて、妻の服を脱がすのはお手のものだった。
脱がした衣類はシュラーフの中に収めていく。
やがて素っ裸になった妻を穴の中に放り込んで土を被せ始めた。
しかしそこだけ土の色が違うので、回りの土と変わらないように落ち葉を混ぜたりしな
がら、慎重に作業を進めた。
小一時間ほどして、遺体の穴埋めが完了した。
念入りに深く穴を掘ったので、大雨や多少の地震くらいでは、土の中の遺体が顔を出す
ことはないだろう。
妻の衣類の入ったシュラーフを抱えて、乗ってきたRV車の方に戻る男。
「これでいい」
男はシュラーフを助手席に置き、RVを発進させた。
途中には他の車と出会うことなく、無事に別荘へと帰ってきた。
身体が穴掘りで汚れていたので、風呂に入って土を洗い流した。
風呂上りに缶ビールを空けると、程よい眠気が襲ってくる。
寝室に入りパジャマを探す。
本来なら妻が用意しておいてくれたものだったが、その妻はいない。
タンスを開けて中を見ると、妻の持ち物である女物のランジェリーが、所狭しと溢れる
ように収まっていた。
その中からパジャマを探そうとするが見つからなかった。
妻の妖艶なるネグリジェとかが出てくるばかりであった。
疲れて寝入ろうとする夫を奮起させて、夜の営みを成就させようと、夜毎に取り替えて
悩殺してくるアイテムだった。
そのネグリジェの一つを取り出してみる男。
「これを着る妻はもういないんだな……」
そう思うといとおしくなってくる。
パジャマは見つからないし……。
何を思ったのか、男はその妻のネグリジェを着込んだ。
その途端に緊張が解けて激しい睡魔に襲われて、ベッドに倒れこむようにして眠り込ん
だ。
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