第十章・漁夫の利
Ⅰ  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉  技術主任 =ジェフリー・カニンガム中尉  ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ  前進基地クラスノダール周辺に展開するサラマンダー艦隊。  銀河人の使節団が帰還して、一息つくトゥイガー少佐達。  副官のジョンソン准尉が呆れて言う。 「彼らの言い方は、まるで我々が侵略行為で惑星を奪取したというような雰囲気で したね」 「そうだな。こっちの技術力の方が勝っていたから、言葉を濁すだけだったが、逆 だったら強く返還要求してきて、奪還されていただろうな」 「油断しないで付き合っていくしかないようですね」 「それはともかく、外交問題は本国に委ねるしかない」  イオリス国首都星。  評議会において、トゥイガー少佐の報告を受けて、遭遇したアルビオン共和国と 惑星クラスノダールの扱いについて協議がなされた。 「彼らの星だというクラスノダールについては、返還要求は拒否することは決定す る」 「しかし……彼らが、一万年後の我々の子孫というのは真実なのだろうか?」 「随伴の生物学者やドクターによると、どうやら間違いないらしい」 「だからといって、交流できるとは限らないぞ。我々の歴史を見ても、宗教の違い や為政者の都合によって、幾度もなく同じ民族同士で戦い合った」 「このイオリスは、彼らにすれば銀河の反対側の端、最果ての地となる居住可能な 星だ。開拓移民の最終地として発展に尽力を注いだのだろうな。人口は一億人を越 えていたようだ」 「それを奪われたのだ、心象的に良くはないだろう」 「いや、冬虫夏草によって都市はすでに滅亡しており、放棄して立ち去ったのだか ら、現状は無主地と同様だろう。こちらが消毒して住めるようにしたんだからな。 これを領有宣言したとて、どこからも批判を受ける筋合いはない」 「しかしどうするのだ? クラスノダールから先の星域は、すでにどちらかの国家 の勢力圏になっているだろう。もはや先には進めないぞ」 「彼らの技術では居住できない惑星があるだろう。そこを我らの技術で住めるよう にしてやれば、分け与えてくれるのじゃないか?」 「君は、甘いな。自分の領土内に飛び地の所領を分け与える気分になれるか? 仮 に分け与えられて開拓を進めて、満足いく環境になった時に、突然返せと言われて 見ろ。周りは敵だらけだ」 「ミュー族とかいう方はどうなのだ? この惑星イオリスの先住民を一人残らず殲 滅した相手だ。一億人からはいたと思うのだが、好戦的であまりにも無慈悲な民族 だな」 「捕虜にしたミュー族の女に対応した者の話だと、従順な感じだったと言いますけ どね」 「たかが女一人が従順だとしても、他の仲間がそうであるとは思えない。生き延び るために従順ぶっているだけかも知れんからな」 「そもそも好戦的な国家というのがミュー族ということだろ?」 「ミュー族の方は、御しやすいだろう。勝手に戦いを仕掛けてきて、勝手に自滅す る」 「用心しなければならないのは、アルビオンの方だな。油断していると寝首を掻く こともやりそうだ」 「しかしこれからどうするのだ? 我々は生活圏を広げるために新たなる居住地が 必要だし、そのためには先に進むしかない」 「前にも議論したと思うが、技術力はこちらの方が勝っているのだ。交渉にならな いなら、力づくでも奪い取れば良いじゃないか。この銀河はすでに戦乱の地、我々 が乱入して三竦みとなるも望むところだ」 「そもそも彼らだって、勢力争いで相手国に負けじと開発も疎かにして、先へ先へ と前進基地を進めてきただけじゃないか。まともな領土とは言えない」  評議会は、主戦論派(ジンゴイズム)と講和派とが半々であった。 「そろそろ結論を出そうじゃないか」
     
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