第五章・それぞれの新天地
Ⅰ
ミュータント族の乗る探査艇が、次なる惑星探しに出ていた。
目の前には、これまでの天体観測で惑星が発見された恒星がある。
惑星は、ほぼ一年で恒星の周りを公転し、水の存在できるハビタブルゾーン領域
に入っていた。
近づくに連れて、色鮮やかな緑色をした惑星であることが判明した。
緑色の正体は植物か? 鉱物か?
不明だった謎が明らかにされようとしている。
「よし、衛星軌道に入れ!」
減速して惑星の衛星軌道に入る探査艇。
「スペクトル分光で、クロロフィルが検出されました」
「植物があるということか……。自然発生したか、隕石とかで飛来したか? 動物
はいないのか?」
「地上には動いているものは見当たりません。海中の方は分かりませんが」
「着陸船を降ろして調査しましょう」
惑星表面には何があるか分からないので、まずはリモートでの探索が進められる。
着陸船が地表に降りて大気成分などを観測しながら、独立して動き回る地表探査
車が切り離される。
「酸素21%、窒素77%、アルゴン0.8%、二酸化炭素0.04%などとなっ
ています」
「地表温度35度、湿度20%、風速3m、恒星から受ける放射照度800W/m2
……」
「素晴らしい! ちょっと暑いようだが、完全な地球型惑星じゃないか」
一通り調べてみると、現時点では何ら障害となるものは見つからなかった。
「そろそろ本船を降下するとしようか」
衛星軌道から大気圏に突入して、海岸線に着陸した。
扉が開いて、小躍りしながら地上に降り立つ乗員達。
裸になって海に泳ぎだす者もいる。
「あ、あれを見て!」
一人が海の方を指さしながら叫ぶ。
そこには、海面を飛び回る黒っぽい物体があった。
「魚だ!」
「ほんとだ! 釣りしようぜ!」
船に戻って釣り道具を取りに行く者のそばで、冷静に忠告する者もいる。しかも
彼は、念のためにとマスクをしていた。
「おいおい、ここに何故魚がいるのかと追及する方が先じゃないのか?」
しかし彼らには聞こえなかったようだ。
「しようがない奴らだ……。さてと、こっちは仕事を始めるか」
呟くと、彼の専門である生物学の調査を始めた。
海岸近くに茂っている植物群を見渡す。
「見たところシダ植物、それも木性シダと呼ばれるものに近いようだが……被子植
物はないようだな。差し詰め地球でいうところの石炭紀だな」
石炭紀に繁栄したシダ植物は、高さ30mにまで成長した『レピドデンドロン』
や『カラミテス』である。温暖な気候から昆虫や両生類が栄えた時代である。酸素
濃度は35%に達して、節足動物などの大型化を促進した。
「海に魚類がいるにしては、地上には動物はいないのか……」
「おーい、そこの生物学者。来てくれ!」
釣りをしていた者が大声で呼んでいる。
なんだろうと近づいてみると、釣り上げた魚を指さして、
「見てくれよ。血が真っ青だぜ」
その場で調理しようとしたのであろう。
捌かれた腹から、青い血液が流れ出ていた。
「ああ、これね。血液が青いのは、ヘモシアニンという成分のせいだよ」
「へも……ん?」
「俺たちの血液が赤いのは、ヘモグロビンという成分のせいで、呼吸システムで鉄
と酸素が結びついて赤く見えるんだ。こいつらは、銅が酸素と結びついて呼吸を行
っているから、血液が青いんだ。節足動物のカブトガニが有名だけど、アサリやロ
ブスターなどの甲殻類や、蛸やイカなどの軟体類がそうだよ」
「で、こいつは食えるのか?」
釣り人にしてみれば、学説はどうでもいいから食べられるかどうかが重要みたい
だ。
「一部の種のカブトガニは、テトロドトキシン(フグ毒)という猛毒を含んではい
るが、国によっては食べられている。調理法次第なんだろうけど、この魚は調査が
済むまでは食べない方がいいだろうね」
「そうか、仕方がないな。当分はキャッチアンドリリースするか」
「それよりも仕事をしろよ。与えられた任務があるだろう?」
「へいへい。わかりやした」
それぞれに与えられた任務に戻っていった。