第二十三章 新提督誕生
I シャイニング基地通信室。 暗がりの中、壁面に並ぶパネルスクリーンに一人一人の審議官が映し出されている。 部屋の中央に一人、直立不動でいるのはアレックスであった。 「……それでは、先の軍法会議にて裁定された通りに、貴官に少将の官位を与え、第 八師団タルシエン要塞司令官、並びにシャイニング基地、カラカス基地、クリーグ基 地を統括するアル・サフリエニ方面軍司令官に任ずる」 「はっ! ありがとうございます。謹んでお受けいたします」 「なお、タルシエン要塞においてはフランク・ガードナー少将率いる第五師団の司令 部を併設することとする」 「了解しました」 「また貴官の昇進に際し、第十七艦隊の後任として貴下の武将の准将への昇進と艦隊 司令官の任官を承認するものとする」 「ありがとうございます」 「なおいっそうの精進を期待したい。以上である。ご苦労であった」 パネルスクリーンが一斉に閉じて真っ暗になった。 「提督、おめでとうございます」 部屋の照明が灯されて、パトリシアとジェシカが歩み寄ってくる。 「ありがとう」 部屋を出る三人。 通路を歩きながら質問するアレックス。 「これでやっと自由の身ですね」 「ああ、そうだな」 これまでのアレックスは、軍法会議の審議預かりの身だった。 第十七艦隊司令官という地位はすでに解任されており、タルシエン要塞攻略のため に仮に与えられていたのである。 「タルシエン要塞はどうなっているか」 「ケースン中佐、コズミック少佐、そしてジュビロ・カービン……さんでしたっけ? その三人でシステムのチェックを行っています。あれだけ巨大な要塞ですから、コ ンピューターシステムを総取替えするわけにもいかず、そのまま利用させてもらうし かありません。現在、コンピューターなどの使用マニュアル作成や、ウィルスが潜ん でいないかとか日夜不眠不休で取り組んでおります」 「またレイティーのぼやきを聞かされそうだな」 「でもちゃんとやってますよ。ぶつくさ言ってますけど」 「しかし、ジュビロさんのことですが……。民間人に軍のコンピューターをいじらせ ても大丈夫なのでしょうか?」 「最高軍事機密ということか?」 「はい……」 「確かにそうかも知れないがね。仮にジュビロを引き離したところで……いや、何で もない。協力してもらえるのならそれでいいじゃないか。責任は私が取る」 そう……。 闇の帝王とさえ言われる天才ハッカーに掛かれば、要塞のシステムに介入すること など容易いだろう。いずれ要塞のコンピューターは本星の軍事コンピューターネット に接続されることになる。つまりジュビロを隔離しても無駄なことだ。 「提督がそうおっしゃられるのなら構いませんが」 「何にしても、あれだけ巨大なシステムだ。一人でも多くのシステムエンジニアが必 要だ」 「それはそうですけどね」 基地の食堂。 昼休み時間、多くの将兵が食事を取っている。 話題は、もちろんタルシエン要塞陥落についてである。 「とうとう要塞を落として、連邦にも逆侵攻できるようになったというわけだな」 「そう簡単にいかないさ。タルシエンの橋の片側を押さえただけじゃないか。もう片 側の出口も押さえないと侵攻は無理だよ」 「それにしても、うちの提督はすごいよな。誰も成しえなかったあの要塞の攻略を、 ほんの数日で成し遂げちゃうんだもんな」 「だってよお、士官学校の時からずっと作戦を練っていたっていうじゃないか。当然 じゃないのか?」 「作戦立案者のレイチェル・ウィング少佐とパトリシア・ウィンザー少佐は、二階級 特進らしいぜ」 「つうことは大佐か?」 「一体、大佐は何人になるんだ? ディープス・ロイド中佐も大佐昇進が内定してる んだぜ」 「多すぎることはないだろう。何せタルシエン要塞というものがあるんだ。要塞司令 官とか、駐留艦隊司令官とか、いくらでもポストはあるだろう」 「なあ、第十七艦隊だけどさあ。次期司令官は誰だと思う?」 「ううん、どうなんだろうね」 「現在、司令官は空位なんだろ?」 「ああ、軍法会議でランドール提督は司令官の地位を剥奪されたらしいからな」 「やっぱり、艦隊司令官となれば俺達のオニール大佐だな」 「当然だな」 頷く隊員達。 「おい、おまえら!」 食事をしていた隊員たちを取り囲むようにして、別の一団が立っていた。 仁王立ちと言ったほうがいいだろう。 「今言ったことを、もう一度言ってみろ」 「はん? 何だおまえら」 「こいつら、チェスター大佐配下の連中だぜ」 「ああ、副司令官のか」 「聞こえなかったのか。先ほど言ったこともう一度言え!」 「何をすごんでるんだよ。ああ、言ってやるぜ。次ぎの艦隊司令官はゴードン・オ ニール大佐だよ」 「その、根拠はなんだ?」 「知らないのか、退役間近な大佐はいかに功績を上げて昇進点に達していても、将軍 にはなれないんだよ。勇退して後進に道を譲ることになってんだよ。慣例だよ」 「そうそう。たとえ司令官になっても、すぐまた退役じゃしようがないだろ」 「つまり、俺達のオニール大佐が司令官になるに決まってるってこと」 「ふざけるな!」 「まだ発表もされていないのに、勝手に決めるんじゃねえ」 「だから、決まってるも同然だと、言ってるんだよ。馬鹿か」 「なんだと!」 ついに口喧嘩から殴り合いにまで進展してしまう。 「やれやれ!」 野次馬達が囃し立て、喧嘩がやりやすいようにテーブルを片付けていく。 「どっちも負けるなよ」