第二十二章 要塞潜入!
I
要塞ゴミ処分区画。
穴の明いた隔壁からさらに一区画内部に入った所に、大型ミサイルが突入してめち
ゃくちゃになっている。
隔壁の応急処置に集まってきた工兵隊達。
「えらくひどくやられたものだな」
空気が抜けているために、船外服を着込み、ヘルメット内に仕込んである無線機で
会話をしている。もちろん空気がなければ音が伝わらないのは当然だ。
「なんだこれは!」
区画内に横たわる黒光りする物体に釘付けになる隊員。
「不発ミサイルだ」
「例の次元誘導ミサイルとか言う奴か?」
「おかしいじゃないか、この穴を開ける爆発を起こしたんだろ?」
「偶然、二発同時に突入したのかもな。先に突入した奴の爆発で、信管が動作不良を
起こして不発になったのかも知れない」
「兄弟殺し(fratricide)と呼ばれる現象だよ。多弾頭では良く起きる」
「ともかく、爆弾処理班を呼ぼう」
艦内電話をとって連絡する兵士。
「そっちは放って置いて、こっちの穴を早く塞ぐんだ。ここを狙い撃ちされたらもた
ないぞ」
「了解!」
作業機械が明いた穴に取り付き、修復が開始された。予備のブロック片が運び込ま
れて、穴を塞いでいく。
「ここの区画は爆弾処理が終わるまで封鎖だ。誘爆して他の区画に被害が出ないよう
にしなくては」
中央コントロール。
「隔壁の修復はどうなっている?」
「まもなく完了します」
「そうか……。それで不発弾の方の処理は?」
「レクレーション施設の方で手一杯です。多弾頭ミサイルだったらしく、不発の信管
を抱えた子弾の処理に追われています」
「急がせろ! 守備艦隊はどうなってる?」
「クンケイド少将が指揮を引き継いでおります。別働隊を警戒して現状空域で全艦停
止、敵本隊と睨み合いが続いています」
「別働隊の動きは?」
「全艦、撤退しました」
「引き続き警戒を怠るなよ」
「はっ!」
ごみ処分区画。
すでにブロック片によって穴は塞がれ、接合処理が行われていた。
「よし、応急修理は完了した」
「不発弾が爆発しなくて良かったですね」
「そうだな。その性能からして、たぶん時限信管を使用しているはずだ」
「だとすれば、いつでも爆発する可能性がありますね」
「そうだ。後は処理班にまかせよう。処理が済むまでは、本格修理はお預けだ。一旦
ここを退去しよう。遮蔽壁を降ろせ!」
作業機械が撤収し、ごみ処分区画を閉鎖するために、遮蔽壁が降りはじめている。
「しかしゴミ処分区画に突入するとはな」
「ああ、ここの隔壁は他より薄いんだ」
「ともかく不発弾でよかったな」
「まったくだ」
遮蔽シャッターが降りされていく。
それを掻い潜るようにして工兵隊が区画の外へ避難していく。
「爆弾処理班は、いつ到着する?」
「レクレーションの方の処理がまだだそうです。まだ当分かかりそうです」
「そうか……」
工兵隊の避難が完了し、遮蔽シャッターが降り切って、完全に封鎖された区画とな
った。
その区画の中に取り残されたミサイル。
やがてミサイルが軽い爆発と同時に割れて中からノーマルスーツに身を包んだアレ
ックス達が出てきた。ジュビロ、レイティー、その他の工作隊の面々である。
「端末は?」
「提督、あそこにあります」
レイティが隅の端末を目ざとく見つけて指差した。
素早く駆け寄って端末を操作してみるレイティ。
「どうやら、中央制御コンピューターに接続されているようです」
「予想通りだ。ジュビロ、君の出番だな」
「まかせな」
ジュビロは端末機器と接続コネクターの間に、持ち込んだ自慢の支援システムコン
ピューターを接続した。
「システムに侵入するのに、どれくらい掛かりそうだ」
「今、接続したばかりだぜ。まあ、あせるな。十分もあれば侵入できるはずさ」
「よろしく頼む」
ジュビロが端末を操作しているのを横目で見ながら、ごみ処分区画を監察するアレ
ックス達。
「隣の区画はどうか?」
遮蔽壁を開閉する操作盤を調べている工作隊員に尋ねるアレックス。
「隣の区画も空気が抜かれています。どうやら避難して人はいないみたいですね」
「ここが爆発し、この遮蔽壁が破砕した場合に備えてのことでしょう」
「そうか……」
「さすがに堅固な要塞ですね。かなりの爆発があったでしょうに、この区画だけしか
破壊できないとは」
レイティーが感心したように言った。
「隔壁を破壊するために、外側へのみ爆発圧力を加える指向性爆弾を使用した」
「指向性? そんな爆弾があるんですか?」
「フリードに頼めば、何だって作ってくれるよ」
「さすが、フリード先輩。でも、そんな爆弾の考案をする提督もすごいです」
「おだてても何も出ないぞ」
「分かりましたよ。二発目の次元誘導ミサイルって、隔壁を破壊するためのものだっ
たんですね」
工作隊の一人が声を挙げた。
「何を今さら気が付いたのか?」
「作戦の詳細は聞かされていませんでしたから」
「それにしても、壁の向こうには防御艦隊が集結してるんでしょうね」
「そりゃそうだ。穴を塞いだとはいえ脆弱だからな」