第二十一章 タルシエン要塞攻防戦
I  一方のランドール率いる別働隊の第六突撃強襲艦部隊と第十一攻撃空母部隊。準旗 艦セイレーンでは、着々と作戦準備が進行していた。  その艦載機発進デッキ。  ひときわ大型の重爆撃機が羽を広げて、発進準備に入っていた。  そのすぐ真下には、重爆撃機に搭載される大型ミサイル。  ミサイルの胴体が二つに割れており、炸薬と推進剤の替わりに詰められた緩衝材の 一部に人間が丁度入れるくらいの空洞が多数空いていた。  すぐそばには、船外用の宇宙服を着込み、左手小脇にヘルメットを抱え、右手でチ ューブに入ったペースト状の宇宙食を食べているアレックスが、ミサイルの装着作業 を見つめていた。 「どうせなら君の開発した次元誘導ミサイルが利用できれば、もっと楽に事を運べる のだがな」  そばで最後のチェックを入れている技術将校のフリード・ケイスン少佐に尋ねた。 「それは不可能です。あれには生命を運ぶ能力はありません。肉体的・精神的に完全 に破壊されてしまいます」 「だろうな」  パイロット控え室では、天才ハッカーのジュビロやレイティが、手助けを受けなが ら宇宙服を着込んでいる。一緒に出撃するその他の乗員はすでに準備を終えて、ベン チに腰掛けて待機している。  この作戦に初顔として参加するジュビロに、疑心暗鬼する乗員達であるが、アレッ クスの肝いりということで、信じるよりなかった。 「提督。敵守備艦隊が前進をはじめました。味方艦隊との間合いを縮めようとしてい るようです」  艦橋のジェシカから連絡が入った。 「作戦通りだな。乗員を集合させろ」  すぐさまに乗員が召集される。  そして、一人一人にシャンパンが渡される。 「諸君。この作戦任務に志願してくれたことに感謝する。失敗すれば生きて帰ってこ れぬかも知れぬが、これを成功させなければ明日の共和国同盟はないだろう。できう る限りの算段はしてあるから、与えられた任務を忠実に遂行して欲しい。我らに赤い 翼の舞い降りらんことを!」  グラスを捧げ乾杯するアレックス。 「赤い翼の舞い降りらんことを!」  全員が一斉に乾杯を挙げ、飲んだグラスを床に叩き付けた。  この作法は、グラス(杯)を割る→二度と乾杯のやり直しはできない→後戻りしな い、決死の覚悟で出陣するぞという意思表示である。 「よし、全員乗り込め」  宇宙服に身を包んだ隊員達がミサイルの空洞部分に乗り込もうとしている。 「しかし、本当に大丈夫なんでしょうねえ。心配ですよ」  レイティーが心配そうな顔をしている。 「ダミー実験を繰り返して、乗員の安全度は保証されている。問題があるとすれば目 標に無事到達できるかだ」  フリード少佐が答えた。 「というと、このミサイルを発射する射手の力量にかかっているというわけですね」 「そうだ」 「で、その射手は誰ですか?」  人だかりをかき分けて進み出た人物がいた。 「わたしだよ」  第十一攻撃空母艦隊の中でも、三本の指に入る射撃の名手、ジュリー・アンダーソ ン中尉である。 「アンダーソン中尉!」 「中尉は重爆撃機乗りでは一番の腕前だ。このミサイル発射には寸部の狂いも許され ない。よって自動誘導発射にたよることはできない。ミサイル発射のタイミングは、 中尉の神業ともいうべき絶妙の反射神経が必要とされるのだ。そして、ミサイルを搭 載する重爆撃機の操艦を担当するのが、やはり撃墜王のジミー・カーグ少佐である」 「ハリソンと並び称される撃墜王のお二人が?」 「これで少しは諸君らも安心できるだろう」 「まあ、多少はねえ……」 「と納得したところで、出発するとするか。密封しろ」 「はい」 「提督、お気を付けて」 「うむ。」  するすると二つの胴体が合わされていく。  鈍い音とともに完全なミサイルとなる。 「よし、装着しろ。慎重にな」  整備員が寄り集まってきて、ミサイルを重爆撃機の下部に装着する。 「作戦開始五分前。総員戦闘配備につけ」  艦内放送が響きわたった。  戦闘機に搭乗するパイロット。それを支援する整備員達の慌ただしい動き。 「いいか、ワープアウトと同時に出撃する。全機エンジン始動!」 「エドワードの隊は、重爆撃機の護衛が主任務だ。絶対に落とさせるな、提督が乗っ ておられるんだからな」 「了解」
     
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