第十五章 収容所星攻略

                [ 「帰還した機体数は?」 「各空母からの報告をまとめている最中ですが、推定3200機かと思われます。相当や られましたね」 「800機もやられたのか? これじゃあ、勝っても素直に喜べないな」 「ええ……そうですね」  例え今日の戦には生き残っても、明日は我が身。はっきり言って戦闘機乗りは消耗 品である。自ら志願して戦闘機乗りになった者達の宿命とはいえ、自分の能力と悪運 が頼りの厳しい世界である。 「ジミーの方はどうなんだ」 「あちらは、邪魔な艦載機はいないし木偶の坊の戦艦相手ですからね。上手く立ち回 ってかなりの戦艦を沈めたみたいです。とはいっても装甲の厚い戦艦を撃沈するのは 簡単じゃないですけど」 「ちっ。損な役回りを当ててしまったな」  舌打ちし、悔しそうな表情をしていた。  その理由は、艦載機一機撃ち落すのと、戦艦一隻撃沈するのとでは、功績点に大き な違いがあるからだ。 「でも、味方の被害を出さないためにも、敵艦載機を撃滅するのも重要ですから」 「判ってるさ」 「それに実質的な功績点以外に、指揮官が与える実戦評価点があるじゃないですか。 昇進には両方の点を加算するんですよね」 「あのなあ……何も判っちゃいないな。確かに昇進に際しては、功績点と評価点を加 算して考慮されるさ。しかし昇進速度や恩給の算出には功績点の方が分がいいんだ よ」 「そうなんですか?」 「功績点は、戦術コンピューターが、敵艦載機や戦艦を撃ち落すたびに自動的に累積 計算して、軍の中枢コンピューターにリアルタイムで入力されるんだ。功績点が規定 点に達したと同時に昇進候補対象となる。これが曲者でね。カインズ中佐が大佐にな り損ねてしまったのも、オニール中佐が一足先に規定点に達して昇進候補に入ったた めで、後は大佐枠がなくなって頭ハネを食らったのさ」 「へえ……知りませんでした」 「例え撃墜され戦死してもデータは残るから、遺族恩給なども最期の功績点を元に計 算されるというわけさ」 「少佐がやっきになっておられる気持ちが判りましたよ」 「そうか……なら、急いで補給の指示を出してくれ」 「了解」  と返答したもののすぐに言い返してきた。 「ああ……でも今回の指揮はパトリシアですよね」 「そうだよ。アレックスなら作戦の後で文句の一つも言ってやりたいところだが、パ トリシアじゃあそれもできん! 可愛い後輩だからな」 「ですよね。彼女も一所懸命に頑張っているんですから」 「とにかく急いでくれよ」 「へいへい」  第十一攻撃空母部隊は、巡航艦や駆逐艦に高速軽空母という艦艇で組織されていた。 足の遅い戦艦ではとても追いつけなかった。艦載機を全機発進させてより軽くなった 空母は、高速移動で敵艦隊の後背に回って、艦載機と一戦して弾薬の乏しくなったハ リソン編隊を回収して燃料と弾薬の補給、完了と同時にすぐさま再出撃させて、部隊 をさらに敵艦隊を取り巻くようにして高速移動させながら、常に敵艦隊の射程に入ら ないように行動していた。  艦載機は全弾を撃ちつくしては、空母に戻って補給、すぐさま再出撃というパター ンを繰り返していた。攻撃、回収・補給、再出撃という艦載機による執拗なサイクル 攻撃は、確実に敵勢力を削り取っていった。艦載機の援護のない艦隊ほど悲惨な状態 はなかった。いかに強大な火力を有していても、小さな目標である艦載機を撃ち落す ことは甚だ困難である。  やがて敵艦隊は勝ち目がないと判断したのか撤退をはじめた。 「敵艦隊が撤退をはじめました!」  オペレーター達の表情から緊張感が解きほぐされていく。 「追撃しますか?」  リーナが問いただす。 「いいえ。我々の任務は捕虜の救出です。敵艦隊は放っておきましょう」 「判りました。早速惑星上陸にかかりましょう」  パトリシア達の奮戦振りをカインズのそばで観察していたパティーが、囁くように 言った。 「やりましたね。これで大尉も少佐に昇進ですよ」 「まだ任務は終わっていないよ。収容所の捕虜を救出する任が残っている。もっとも 捕虜が残されていそうにないがね」 「そんな感じですね」
     
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