第十六章 交渉
Ⅰ  要塞周辺の基地に撤収した各艦隊だが、クリーグ基地には第十一艦隊、シャイニング基地には第十七艦隊と第五艦隊、カラカス基地にはカインズの独立遊撃艦隊を置いて光背のアルサフリエニ共和国の防衛の任に当たっている。  タルシエン要塞が陥落してしばらくは音沙汰なしであった。  銀河帝国内紛後の後始末に没頭しているアレックスには大助かりというところだろう。 「静かだな」 「まずは要塞の損害状況把握と修繕をしているのでしょう」 「それと、システムのチェックをしているだろうな」 「トロイの木馬が仕掛けてあると?」 「まあ、誰しもそう思うだろうからな」  タルシエン要塞のことも気になるが、今のアレックスにはやるべきことが山積みだった。  帝国の内乱の後始末である。  まずは首謀者たるロベスピエール公爵の処遇である。  ウェセックス公国の自治領主であるがゆえに、話を難しくしている。  最悪として、銀河帝国から脱退して独立宣言をするかもしれない。  自分はぽっと出のよそ者だったのだから、貴族内の確執に土足で踏み込むのは気が引ける。『貴族社会のことも知らない田舎者』と内心思っている者もいるだろう。でなきゃ内乱など起こらなかったはずである。  銀河帝国には、称号剥奪法というものが存在していた。 「皇帝は枢密顧問官よりなる委員会を設けることができる」と定める条文があり、枢密院司法委員会の少なくとも2人の委員を含めて審議を行ったうえで、同委員会の報告に基づいて剥奪する旨を規定していた。  そこで枢密院特別委員会を招集して、公爵の処遇について検討させることにした。  旧摂政派と皇太子派それぞれの委員に結論を出させることで、自身への反感を反らそうとしたのである。  穏便に事態を収拾させるには仕方がない。  やがて枢密院特別委員会から、公爵の処遇についての結論が出た。 「ロベスピエール殿は、自治領と爵位を弟のアルバート・タウンゼンド伯爵に譲位することとし、自身はニューサウスウェールズ植民星総督官として赴任する」  ニューサウスウェールズ植民星は、本来流刑地として罪人が送られて、開墾に従事させれていたのだが、開発が進み観光資源としての重要性が鑑みられるようになった。その地に総督府を置いて監督させる監督官を置いていた。  つまり自治領領主(公爵)から、一植民星の総督(男爵相当)に降格されたということになる。  国家反逆罪は死刑であるから、生かされたというだけでも情状酌量ということだろう。最も貴族としての面子は潰れるだろうが。 「なお、エリザベス皇女さまはお咎めなしで、摂政のお務めも引き続きお願いすることになりました」 「そうだな。帝国の内政のことはまだ分からんしな。それでいい」 「殿下、皇帝即位はなさらないのですか?」  皇帝となれば絶大なる権限が付与される。  頭の固い連中を従わせるのにも必要であろうが、 「内紛で政情も安定しない現状では無理だな」  と、あっさりと否定するアレックスだった。
     
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