第九章 共和国と帝国
I
トランターに君臨していたバーナード星系連邦軍は壊滅した。
ついにトランターは解放されたのだ。
取り急ぎ、臨時政府が置かれることとなり、暫定政権の首班として艦隊政務本部長のル
ーミス・コール大佐が就任することとなった。
首班としては、アレックスが推挙されていたのであるが、銀河帝国皇太子としての問題
もあるので、事を荒げたくないとして辞退したのであった。
アレックスは、かつてマック・カーサー総督がそうしたように、枢密院議会議長席から
同盟の解放が達成されたことを政権放送で全世界に流した。総督府を廃止して、臨時の暫
定政府を置き、正規の政府が機能するまでの間、これを軍部が代行することを宣言した。
アレックスが銀河帝国皇太子ということで、同盟所領が帝国の属国となることを危惧す
る民衆に対してこれを断固として否定した。その一環として、追従してきた帝国自治領主
達が、自分の領土権を主張したり略奪に走る気運があるのをとがめて、同盟所領には一切
手を出さないように厳命するとともに、帝国へ強制的に引き返させた。
共和国同盟を連邦から解放したアレックス達が、まず成さねばならないのは、解放軍と
総督軍を取りまとめ新生共和国同盟軍として再編成することであった。
まず連邦総督軍として再編成された時点において、特別昇進した将兵にたいしての勧告
が出された。共和国同盟の規定によらない昇進のあったものはすべて、規定通りの階級に
戻されることとなった。ただし、将軍職にたいしては特別な処置がとられることになり、
規定通りの階級に戻るか、将軍職のまま任意退役するかを選択できるようにされた。これ
は、将軍とそれ以下の階級では、退役後の恩給に格段の差があるためで、人情的な処置で
ある。結局将軍職にあるものは全員退役の道を選び、共和国同盟の将軍はすべて解放軍か
らそのまま引き継がれることとなった。解放軍最高司令官であったアレックス・ランドー
ルは実質的に共和国同盟軍の最高司令官となったのである。にしてもアレックスは中将で
ありその上の大将や元帥が空席のままなのを、いぶかしげに思うものもいたが、同盟では
将軍職には定員があって、欠員が出ない限り昇進できないので、職をわざと開けておくこ
とで、戦績さえ上げれば誰でも昇進できる余地を残し、将兵達の士気は大いに上がったの
である。実情は恩給を出せる経済状態ではなかったというのが真相であったのだが。
先の総督軍総司令だったニコライ・クーパー中将は、元の官位が准将であり総督に取り
入って現在の地位についたことと、戦略家としての知名度も低いために、正式な中将の官
位にあり数多くの実績を持つアレックスの足元にも及ばなかったことから、結局彼も中将
の官位のまま任意退役することとなった。
その一方で暫定政府を開いて政治と経済の復興を目指すことも必要であった。総督軍を
破ったとはいえ、依然として連邦とは戦争状態にあり、一刻も早い復興を図るために軍部
指導による政治改革を断行した。
まず最初に行ったのは、かつての全権区代表選挙による枢密院議員議会制度を廃止した
ことである。全権区を選挙活動するにはあまりにも莫大な財力が必要であり、財力・権力
のある実力者による事実上の世襲議員となり腐敗政治の温床となっていたからである。替
わって全権区を三十六のブロックに分けた中選挙区代表による任期五年非解散の上院議員
議会と、各星系ごとの小選挙区代表による任期四年有解散の下院議員議会との二院議会制
度を発動させた。世論をよりよく反映させるために、解散総選挙のある下院議員に立法的
優先権を与えた。
両院議員の最初の選挙は、準備期間を考慮して四年後に行われることとなった。両院議
員が選出され、議会政治が機能するまでの間、暫定政権として軍部が代行して執り行うこ
ととした。
アレックスは、アルサフリエニ方面軍最高司令官の職はそのままに、トリスタニア共和
国同盟軍最高司令官に就任した。