第二部 第一章 中立地帯へ
T  漆黒の宇宙を、整然と隊列をなして進む艦隊があった。  共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール提督率いる旗艦艦隊、そ の数およそ二千隻である。  先頭を行く艦隊旗艦、ハイドライド型高速戦艦改造U式「サラマンダー」。艦体に はその名を象徴する、何もかもを焼き尽く伝説の「火の精霊」が図柄として配されて いる。バーナード星系連邦の司令官達はその名を聞いただけで恐れおののいて逃げ出 したとさえ言われる名艦中の名艦である。同型艦として、水・木・風・土の精霊の名 を与えられた「ウィンディーネ」「ドリアード」「シルフィーネ」「ノーム」の四艦 があり、それぞれを象徴する図柄を艦体に配している。現在四艦は、タルシエン機動 要塞以下、シャイニング基地・カラカス基地・クリーグ基地を包括するアル・サフリ エニ方面軍の中核として、旧共和国同盟周辺地域に出没してゲリラ戦を展開、連邦艦 隊を各地から追い出してその脅威から解放しながら、その勢力圏を次第に広げつつあ った。  追従するのは、旗艦艦隊の直接運用を任されているスザンナ・ベンソン少佐坐乗の 旗艦「ノーム」である。  サラマンダー艦橋。  その指揮官席に陣取り、艦長のリンダ・スカイラーク大尉が艦隊の指揮を執ってい た。リンダは艦隊運用士官(戦術士官)ではないが、旗艦艦長は通常航行においては 司令官に代わって艦隊の指揮権を行使できるとする、ランドール艦隊の慣例に従って のことである。旗艦艦隊司令官に昇進した前艦長のスザンナ・ベンソン少佐の後任と して、第十七艦隊第十一攻撃空母部隊の旗艦「セイレーン」艦長の任から、部隊司令 官のジェシカ・フランドル中佐の推薦でサラマンダーの艦長に抜擢された。スザンナ 同様に将来を有望視されている一人である。 「まもなくデュプロス星系に入ります」  一等航海士のアニス・キシリッシュ中尉が報告する。 「特殊哨戒艇からの連絡は?」 「今のところ、変わったことはありません。進行方向オールグリーンです」  特殊哨戒艇「Pー300VX」2号機。  基地に設置された高性能の索的レーダーの能力をはるかに超えた索的レンジを誇る 最新鋭の索的用電子システムを搭載した哨戒艇であるが、戦艦百二十隻に相当する予 算を必要とするために、ほとんどの司令官が配備に二の足を踏んでいた。そんな金食 い虫を配備するより安かな駆逐艦を索的用に出すだけで十分だという意見が多かった のである。しかしアレックスだけは、サラマンダー以下の旗艦にそれぞれ配備すると いう積極的方針をとっていた。  アレックスの戦術の基本が一撃離脱であり、敵をいち早く発見して敵に気づかれる 前に奇襲攻撃を敢行して即座に離脱、という作戦を身上としているために必要不可欠 だったからである。もっともランドール艦隊の攻撃力はすさまじく、最初の一撃をか わして無事でいられた艦隊は皆無に近かったが……。 「このまま予定コースを取ります。全艦、進路そのまま」 「全艦、進路そのまま!」  副長のナターシャ・リード中尉が復唱する。 「全艦、恒星系内亜光速航行モードへ移行。機関出力三分の一」  艦長としての任務をそつなくこなしているリンダであった。
     
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