陰陽退魔士・逢坂蘭子/第三章 夢鏡の虚像
其の壱
大阪府立阿倍野女子高等学校。
折りしも月に一度の清掃日。毎日定例の自分達の教室清掃以外に行われる、言わば大掃
除ともいうべきものである。体育館や講堂から、校庭の草むしり、通学路のゴミ&落ち葉
拾いなど、全校生徒で一斉に行うのである。
本校舎の西側に併設された講堂から物語りははじまる。
講堂では、一年三組の生徒達が清掃の真っ最中だった。
蘭子達仲良しグループは床の雑巾掛けを割り当てられていた。
「恵子のパンツ、丸見えだよん」
「もう……。こんな短いスカートだよ。しかたがないよ」
「何で今時、雑巾掛けなのよ」
「そうそう、せめてモップにしてよね」
「他の学校じゃ、業者と契約して教室からトイレ掃除まで、全部やってくれている所もあ
るよ」
「それって私立でしょ。大阪府の予算に縛られている公立じゃ無理な話よね」
その時、監督指導教諭が、手をパンパンと叩いて注意した。
「はい、そこ! 無駄口してないで、しっかりやりなさい。あと一往復で終わりですよ」
「はーい!」
生徒達全員が一斉に答える。
返事だけは良かった。
「どうせ、ここを終えても他の場所を手伝わされるんだから……」
最後の気力を振り絞って、残り一往復を終えた。
「はい、ご苦労様でした。後は、終わっていないところを手伝ってあげなさい」
やっぱりね……。
という表情で、各自講堂内に散らばっていく。
蘭子は、舞台の袖にある部屋の扉から中へと入ってゆく。
口をタオルで覆った生徒が三人、はたきを掛けていた。もうもうと埃が舞い上がるので、
すべての扉や窓は全開で、扇風機を回して埃を吹き飛ばしている。
「手伝いにきたわよ」
「サンキュー!」
「何しようか?」
「とにかくハタキ掛けよ。そこにあるから」
壇上に上がる階段に置いてあったハタキとタオルを取って掃除をはじめる蘭子。
「それにしても、こんなに埃がたまっちゃってさ。長期間使わないのなら倉庫の方にしま
えばいいのに」
「そうだよね。そうすれば、ここも広く使えていいのに……」
それからしばらくは黙々とハタキ掛けを続ける一同だった。
生徒の一人が、カバーで覆われたものを、物陰になる位置で発見した。
「何かしら、これ……?」
彼女の名前は近藤道子。
隠されたものを見つけると追求したくなるのが人間の性である。道子はカバーを取って
中身を確認した。
それは鏡だった。
鏡台に収められ、材質は錫のようで片面がきれいに磨き上げられ、その裏面には見事な
彫刻が施されていた。
「手鏡よね。これ」
金属製の鏡など見たことがないのだろう。手にとって物珍しそうに眺めている。