冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・12

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 と突然、目の前を巨大な影が道を塞ぐ。  身の丈3mくらいはありそうな筋肉質の頑丈な躯体、人間の頭が軽く入りそうな 大きな口から牙を覗かせ、両刃の斧を手に持っている魔物だった。 「オーガだ!!」  コンラッドが剣に手を掛け戦闘態勢に入る。 「後ろからはゴブリンよ!」  わらわらと現れて逃げ道を塞いでいる。 「挟み撃ちだわ」 「前のオーガがリーダーのようですね。後ろのゴブリンは逃げ道を塞ぐ役です」 「となると、先に倒さなきゃならないのは」 「もちろんオーガです!」  言うが早いか、剣を素早く抜いて、オーガに斬りかかるコンラッド。 「とりゃー!!神剣フェニックスブレードの威力を見よ!」  岩場を足掛かりにして空中高く飛び上がり、オーガの頭上から剣を振り下ろす。  一瞬にして、オーガを真っ二つに切り裂く。 「やったあ!凄い凄い!!」  ナタリーが手を叩いて歓声を上げる。  すると切り裂かれたオーガの腹の中から何かが現れた。  それは透明な繭状の物に包まれた人間だった。 「何これ、まるで〇撃の巨人みたい」 「何の話ですか?」 「いえ、あちらの話」 「生きているかどうか、繭を除去してみましょう」  剣を抜いて、えいやっとばかりに繭を切り開いた。  ゴロンと転がり出る中の人。  突然、リリアが指さして叫んだ。 「ああ!あたしだわ!!」 「なんですってえ!?この人があなたなの?」  オーガの体液にまみれているが、確かにその容姿は女性であった。 「間違いありません。あたしです!」 「襲って丸呑みにしたのでしょう」  いつの間にか、後方のゴブリン達の姿が見えなくなっていた。 「ゴブリンの奴ら、恐れをなして逃げ出したようね。 「この身体があれば、元に戻るのでしょうか?」 「上手くいけば、元通りになるかもね」 「とにかくマンドレイクも手に入れたし、急いでモトス村に戻りましょう」  と言って、倒れている女性を抱え上げて歩き出す。 「そうね、そうしましょう」  その後に付きながら、心配そうなリリアだった。 「戻ってきたわよ!」  襲い掛かってくる魔物達をなぎ倒しながら、無事にモトス村へと戻ってきた一向 だった。 「道具屋に急ぎましょう」 「まずは、マンドレイクを届けて報酬を頂きましょう」  道具屋に戻ると、一行の無事の帰還に表情を明るくして、  「お帰りなさい。ご無事でなりよりです」  出迎えてくれた。 「はい、マンドレイクです」  リリアがマンドレイクを手渡す。  それを受け取り、確認して、 「確かにマンドレイクです。ありがとうございます」 「これで村人達の呪いを解くことができますね」  期待に膨らむリリアだった。 「ええ。でも、どうやって手に入れたのですか?知ってますよね?」 「引き抜くと、死の悲鳴を上げるですよね」 「その通りです」 「これを使いました」  リリアは、小瓶を差し出して、 「聖水……ですか?」  意外な表情の道具屋を見て、ナタリーがはしゃぐ。 「あったりー!」 「それはそうと、そろそろ村人達の呪いを解きませんか?」  コンラッドが本題に戻す。 「そうですね。早速、薬を調合しましょう」 「何か手伝えることはありますか?」 「それではお願いしましょうか」  というわけで、早速薬の調合に取り掛かる一行だった。  集めた薬草などを慎重に分量を量りながら、大鍋に入れて煮詰めている。 「ところで、なんでそんな服に着替えたの?」  ナタリーが不思議がる。  それもそのはず、いかにも魔女が着るような衣装に身を包み、魔女の帽子を被っ ているのだから。 「コスプレですか?」  リリアが尋ねると、 「ああこれは、薬を調合する時の作業着です」  飄々と答える。 「凝り性なんですね」  それから数時間後、解毒薬は完成した。 「完成です。早速村の人たちを元に戻しましょう」 「まずは村中に散らばっている猫ちゃんたちを集めなければいけませんね」  コンラッドが問題点を指摘すると、 「それなら簡単です。教会の鐘を鳴らせば集まってきますから。ご飯の合図になっ ています」 「なるほど」  解毒薬を混ぜた餌を持って教会に行く。 「鐘はどうやって鳴らしますか?」 「尖塔の真下に、鐘に繋がるロープが垂れ下げっていますから」 「ロープを引けば良いのね。ああ、これみたい」  ナタリーが見上げると、見上げればかなりの高さのところに見える鐘から垂れ下 がるロープがあった。 「引くわよ。それーえ!」  カラーンコローンと、教会の鐘の音が村中に響き渡る。  すると、どこからともなくゾロゾロと猫が集まってきた。 「あら、可愛い?」  パンダの時もそうであるが、動物にも愛情を持つリリア。 「みなさん、お食事ですよ」  教会の庭先に餌を盛った皿を並べる。 「元は人間ですよね?猫の餌で良いのですか?」  疑問を持ったコンラッドが確認する。 「大丈夫です。そもそも猫になって、その内臓も猫仕様になっていますから」 「なるほど……」 「さあ!お食べなさい」  やさしい顔で見守っているリリア。  餌皿に集まって食べ始める猫たちと、それをじっと観察している一行。 「変化ありませんね……」 「もうしばらく様子を見てみましょう」  やがてお腹一杯になった猫たちは眠り始めた。 「寝ちゃったわよ。まさか毒薬だったの?」 「いいえ、そのはずはありません。もうしばらく待ちましょう」  その時、猫の身体が輝きはじめた。 「変化が表れてきたみたいですよ」 「薬が効いてきたのね」  見ている間に、次々と変身を遂げてゆく猫たち。  一匹が人間に戻ったのを機に、周りの猫たちも人間に戻ってゆく。 「ふああ(大欠伸して)よく寝たなあ」 「あたし達、何してたのかしら」 「あれ?なんで裸なんだ?」 「きゃあきゃあ、見ないで〜」  口々に叫びながら、自宅へと駆け出す元猫の人々であった。 「猫は服を着ないものね」  ナタリーがクスリと笑う。 「ひとまず戻りましょうか」  道具屋に戻る。 「さてと、次の問題は……」  とリリアの元の身体を見つめる。 「生きていますか?」  心配そうに自分の身体をのぞき込むリリア。 「どうでしょうねえ。魂が入っていないから死んでいると言えるのでしょうが。 「そんなあ、いやです!」  泣き崩れて、遺体?に縋りつくリリア。  溢れ出る涙が、遺体の顔にも降りかかる。  と、微かに遺体の手がピクリと動いた。 「ちょっと、今手が動きませんでしたか?」  コンラッドが気付いた。  さすが動体視力の鋭敏な騎士だけに、遺体の微かな動きも見逃さなかったようだ。 「そうかしら……あたしは気づかなったわ」  一同の視線が遺体の手に注視する。  すると、一同監視の中で、再び手が動く。 「動いたわ。見えた!」 「ええ!ほんとうですかあ?」  リリアは遺体に顔を埋めていたので、手の動きを見れなかったようだ。 「あ、また動いた」  と突然、目をパチリを開ける遺体……じゃなくてリリアの身体。 「目を開けましたよ。気が付きました」  ゆっくりと起き上がるリリアの身体。  キョロキョロと辺りを見回している。 「生き返ったみたいですね」 「ちょっと待ってください!あたしの魂はこの身体の中にあるのに?」 「じゃあ、誰の魂が入っているの?」 「現在の勇者さんの身体にはリリアさんの魂が、すると元のリリアさんの身体に誰 かの魂が入っているとしたら……」 「(一同声を揃えて)まさか!!」 「良く寝たなあ(ナタリーを見つけて)おお愛しのハニーじゃないか」  その話し方は、かつての勇者の語り口だった。 「あ、あんた……勇者なの?」 「何度言わせるのか。勇者という名前の勇者だ!」 「そうじゃなくてえ……」 「やはりリリアさんの身体に、勇者さんの魂が乗り移ったようですね」 「そんなあ〜」 「あれ?ナタリー、仲間が増えたのか?」 「気づいていないようですね。道具屋さん、鏡はありますか?」 「ありますよ」  と裏の小部屋から大き目の鏡を取ってくる。 「はい、どうぞ」 「お手数かけます」 「な、なんだあ?(キョトンとしている)」  勇者はまだ自分に起こっていることに気づいていない。 「まずは深呼吸しましょうか」  鏡を勇者の前に置いて、念を押す。 「なんでやねん」 「いいから、気を落ち着けてね」 「なんのこっちゃ」 「では、鏡を見てください」  コンラッドが鏡の表面を勇者に向ける。 「何なんだよ?」  と鏡を見る勇者。  その鏡に映っているのは見目麗しき若き女性だった。 「おお、綺麗な姉ちゃんやなあ」  ナタリーが軽くコホンと咳をして、 「良く見なさいよね」 「何だよ?」  ナタリーに顔を向けると鏡の彼女も横を向くのを見て、 「あれ?」  横向きから鏡に視線を移すと、鏡の彼女も視線を移して自分を見つめる。  右手を上げると、鏡の彼女は左手を上げる。  左手を上げると、彼女は右手を上げる。  バンザイすると、彼女もバンザイする。  一挙一動寸分の違いも見せずに追従する動きを見せる鏡の彼女。 「まさか……」  どうやら気づいたようだ。  唐突に服を開けて自分の胸を確認する勇者。 「なんやこれはあ!!」  そこには豊かな膨らみがあったのである。 「まさか……」  当然のように下半身を確認する。 「ない……」 「どうやら納得したようね」 「どうしてこうなったのだ」 「日頃の行いが悪かったのよ」  という言葉を飲み込むナタリー。  それを言ってしまえば、同様にリリアも日頃の行いが悪かったことになるからだ。 「おそらく二人は、ほぼ同時に亡くなられ、ナタリーさんの蘇生術によって魂が呼 び戻されたものの……」  コンラッドの推理にリリアが、 「入れ替わってしまったと?」  震える声で答える。 「そうです。蘇生術が行われた時、リリアさんの魂が最も近いところを浮遊してい たために、身近な勇者さんの身体に。そして残った勇者さんの魂は、仕方なくリリ アさんの身体に入ったのではないでしょうか」 「いい加減だな」 「何をのんきな事言ってるのよ」 「別に俺は構わんぞ(豊かな胸をじっと見る)」 「いやあ、止めて!」  悲鳴を上げるリリア。  自分の身体を覗姦(しかん)されているように感じるからだ。 「と、とにかく元に戻す方法を考えましょう」  コンラッドが 「ナタリーさん、魂を入れ替える術とか知りませんか?」 「残念ながら知らないわ」 「そんなあ……」  ガックリと気落ちするリリア。 「いっそ性転換薬使ってはいかがでしょうか?」  道具屋が提言する、 「性転換薬?」 「つまり、それぞれの身体を性転換させるということね」 「はい。性転換薬の調合方法は知っていますから」 「リリア聞いた?これで解決ね」 「だめですよお。いくら性転換したって、あたしの魂はリリアの身体だからこそリ リアなのよ」  激しく首を横に振る。 「そうですね。勇者さんの身体であるリリアさんが誰かと結婚して子供が生まれた ら、当然勇者さんと瓜二つで、リリアさんの面影は一切ありませんからね」 「そうだ!クアール最高導師さまなら、何とかできるかも知れないわ」  今度はナタリーが進言する。 「そ、その手がありましたね。元々クアール最高導師様には会いにいく予定でしたし」 「そうね。フェリス王国へ向かいましょう」 「フェリス王国ですか……」  コンラッドが、ちょっと困ったような表情をしている。  何やら、訳がありそうだ。 「どうかしましたか?」 「いえ、なんでもありません。フェリス王国へ行きましょう」 「でも、今日はもう遅いから明日にしましょう」 「それがいな」  一同の賛成を得て、今夜の宿を決めることにする。 「宿屋はありますか?」 「ここを出て右へ五軒目が宿屋です。今頃、主人も人間に戻っているでしょう」

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