第三部 神崎家の陰謀
ノベルアドベンチャーゲームシナリオ(小説版)
part-1
目が覚めると、何も見えない暗闇だった。
「ここはどこだ?」
どうやらベッドの上に寝ているようである。
「くうっ!頭が痛い……」
どうやら、誰かに催眠剤のようなもので眠らされて、ここへ運び込まれたようだ。
「……」
思い出そうとするが、何も思い出せない。自分が誰なのか?名前さえも覚えていない。
いつまでもこうしていても仕方がない。彼は、ベッドを降りて辺りを探り始めた。
「出口はどこだろう?」
何も見えないので、慎重に足を運ぶ。
「痛い!」
何かに躓(つまづ)いて転んでしまう。
ともかく、この現状を打破するためにも、
調べる以外にないだろう。
床をまさぐるようにして、
躓いた何かを触ってみる。
何か生暖かい物に触れた。
さらに場所を変えて触っていくと……。
「足だ!」
人間の足のようだった。
なんで人間が倒れているのか?
生きているのか?
「あの、あなた……」
声を掛けてみるが、返事はない。
足から胴体へと移っていく。
「服を着ていない?」
裸のようであった。
胸のところにきた時、なにかヌメヌメした液体に触れた。
裸でヌメヌメした液体……。
「血だ! 死んでいる?」
どうやら、血を流して倒れている。
驚いて、その身体から離れ引き下がってしまう。
人死には怖いので、部屋を調べることにする。
四つん這いで壁際にたどり着いた。
立ち上がり壁沿いにドアがないか調べはじめる。
手を一杯に上へ伸ばしたり、
床付近まで降ろしたりして感触を頼りに、
丁寧に壁を調べて回る。
ドアが見つかった。
しかし鍵が掛かっているようで、
ドアノブをガチャガチャ動かしてみたり、
体当たりして開かないかチャレンジしたが、
びくともしなかった。
鍵穴らしきものはあった。
「鍵が必要だな」
念のため四回、部屋の角を回ったが、
他に出口らしきものは見当たらなかった。
鍵ならば、床に倒れている人物が持っているかもしれない。
もう一度、人物を調べてみるしかないようだ。
人物の所に戻ってみる。
手探りで調べると、胸にナイフのようなものが刺さっていた。
やはり死んでいるようだ。
血液が完全に固まっていないところをみると、
死んでからそう時間は経っていない。
結局何も身に着けていないことが分かった。
他に調べられるとしたら、
「俺の寝ていたベッドか……」
自分が寝ていたベッドに戻って調べ始める。
鍵が見つかれば良いが、
なければせめて明かりが欲しいところだ。
暗闇の中、手探りでは見つかるものも見つからない。
布団を退けたり、枕の下を探ったりしたが、何も見つからない。
つと、つま先にコツンと何かが当たった。
コロコロと転がる音。
「何だ?」
音を頼りに、その何かを探し求める。
「確か、この辺で止まったような気がするが……」
手探りで床をくまなく探すと、それは見つかった。
「百円ライターか!」
千載一遇(せんざいいちぐう)の好機。
これの火が点けば現場がはっきりと見渡せるはずだ。
ただし、遺体の惨状も目に飛び込んでくることになる。
しかし躊躇していられない。
ここから出るためには、そんなことは言っていられないのだ。
無臭の引火性ガスが漂っていたら一巻の終わりだが……。
しかし、明かりがなければ解決の糸口を見つけることも叶わない。
ライターの火を点ける。
真っ暗闇の中に、ライターの火が辺りを照らした。
床に倒れている人の姿が浮かび上がる。
どうみても裸で死んでいるとしか思えない。
人の方には意識しないようにして、周囲を見渡す。
部屋の中は、殺風景なまでにベッドしかなかった。
窓はなく、出入り口はあのドアだけなのか?
そのドアの壁際に照明用のスイッチらしきものがあった。
暗闇で調べた時には気がつかなかった。
スイッチを入れて照明が点いたら、 犯人に察知されるかも……。
そう思ったが、心細いライターの灯りだけでは、物を探すのは辛い。
スイッチを入れてみると点かなかった。
「電気が通じていないのか?」
天井の照明に向けて、ライターをかざしてみる。
蛍光管が入っていなかった。
ずっとライターを点けていたので、手元が熱くなってきていた。
ガスが無くなっては大変だ。
火を消し、ベッドに腰かけて考えることにする。
これまでのことをまとめてみる。
・そもそも、自分がここに運ばれた理由や経緯。
・そして何より、床に倒れている遺体。
・遺体のナイフはいずれ役に立つかもしれない。
・ドアを開けるには鍵が必要。
・部屋をくまなく捜索するには、やはり天井の照明が重要だろう。
点くかどうかは不明だが。
・ライターのガスには限りがある。
考えても分からないので、捜索を再開することにする。
ライターを点けて、もう一度部屋の中を見渡した。
ベッドと遺体の他は何もない。
「……? ちょっと待てよ」
彼は気が付いた。
遺体から流れ出た血液が、一部途切れていたのだ。
それも直線的にだ。
まるで吸い込まれるように……。
よく見ると床に正方形の溝があり、埋め込み半回転式の取っ手が付いていた。
台所によくある床下収納庫のようなものではないのか?
遺体のナイフを不用意に抜いて、さらに血が流れていたら、溝を埋めて気付かなかったかもしれない。
「もしかしたら、この下に何かあるのか?」
遺体に怖がって注視していなければ、完全に見落としていた。
ただ、遺体が上に乗っているので動かさなければ、蓋を開けられない。
触るのは怖いが……。
遺体を動かして、床下収納庫を調べることにする。
蛍光管と懐中電灯があった。
懐中電灯のスイッチを入れると、点いた!
「やったあ!」
思わず声を出して喜ぶ。
さらに天井の蛍光灯が点けば、この部屋全体をくまなく調べられそうだ。
蛍光灯を点けたまま床に置いて、ベッドを蛍光灯の真下に動かし、蛍光管を取り付けた。
そしてドアそばの照明スイッチを入れた。
「点いたぞ!」
蛍光灯の明かりが、こんなにも頼もしく感じたことはない。
ライターに比べれば、眩いばかりの光によって、捜索は捗るかと思われる。
今まで気づかなったことも明らかになるだろう。
もう一度念入りに部屋の中を探し始める。
壁に色が変わっている場所があった。
手のひらを当てて、右にスライドさせると、中は戸棚となっていた。
「鍵だ!」
十本くらいの鍵の束が入っていた。
「これで扉が開くか?」
小躍りしてドアの所に駆け寄る。
「だめだ! 合わない」
いずれの鍵もドアの錠前には合わなかった。
消沈するが、鍵は後で役に立つかもしれないと持っていることにした。
「待てよ。床下収納庫って確か……」
思い出した。
床下収納庫は、ボックスが外せるようになっていて、
床下に入れるようになっているはずだ。
ここにはもう何もないようだ。
床下に降りることにする。
ボックスを枠から外して床下に降りる。
遺体に突き刺さったナイフが目に入った。
そうだ!
自分を閉じ込め、殺人を行った犯人がまだどこかにいるかもしれない。
身を守るためにも、武器は必要かも知れない。
「なんまんだぶ……」
ナイフを引き抜いた。
血液がいくらか流れたが、広がるほどではなかった。凝固が始まっていた。
懐中電灯片手に、床下へと降りる。
念のために床下収蔵庫の蓋を閉めておいた。
「ここにも遺体がありませんように」
殺人事件ではよくある話で、床下や天井裏に隠すものだが。
上の方で、ドカドカと大勢の人間の足音が聞こえて来た。
どうやら警察官が入ってきたみたいだ。
「人が倒れています! 死んでいます。 なんだこれは! 毒ガスだ、一旦退避しろ!」
そんな叫び声が聞こえてきた。
「危なかったな。いずれここも見つかるだろうが、しばらくは時間稼ぎができる」
祈りながら、床下を懐中電灯で照らす。
這いずり回っていくが、本当に別の出口があるのか心配になってくる。
そもそも、今は何時なのだろうか?
昼なのか夜なのか……。
今のところ完全に閉ざされた空間ばかりなので、外からの光が入ってこないから、判断不能であった。