続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動?
(一)おぼっちゃま?
繁華街を歩いている慎二がいる。
と、わき道から女性の悲鳴。
何事かとわき道へと歩いていく慎二。
女性が困っていたら助けるのが男の信条。
そこには一人の女性が数人の不良グループに絡まれていた。
「助けてください!」
慎二に気がついた女性が助けを求める。
「おらあ! おまえ達何をしているか」
声を荒げて不良グループ達に近づいていく慎二。
ところが一歩踏み出した瞬間に後頭部に激しい痛みを覚えた。
地面にどおっと倒れる慎二。
「やったぜ!」
「大丈夫なの? 死んだんじゃない?」
「これくらいじゃ死なないよ。石頭だからな」
「でも、動かないじゃない」
女性の声も聞こえる。
その語り具合からして仲間だったようである。
「ちょっと脳震盪を起こしているだけさ。すぐに気が付くさ」
「気が付かれる前にやっちまおうぜ」
「おうよ。まともに戦って勝てる相手じゃないからな」
よってたかって倒れている慎二に夢中で蹴りを入れる不良グループ達。
慎二は気絶していても本能的に急所を庇っていた。
その頃。
同じ繁華街を二人仲良く徒歩で帰宅する梓と絵利香。
ふとわき道に視線を向けた絵利香が気が付く。
路上に倒れている男がいる。
「ねえ、あれ慎二じゃない」
「ん……そうみたいだね」
急いで慎二の所に駆け寄る二人。
「おい。こんなところで寝ていると風邪ひくぞ」
「それが地面に倒れている者に掛ける言葉かよ」
倒れたまま声を出す慎二。
「いや、おまえがやられるなんて信じられなかったからな。寝ているんじゃないかと」
「ひどいやつだな」
と、ゆっくりと起き上がる慎二。
「また喧嘩したのかよ。懲りないやつだな。で、今日は何人が相手だ」
「喧嘩じゃねえ。闇討ちにあったんだよ。でなきゃ負けやしない」
「女でもいたか?」
「ああ、いたな」
「ええ格好しようとして油断したんだろ」
「かもしれねえ」
「立てるか?」
「ああ……」
と立ち上がろうとする慎二だったが、わき腹を押さえて蹲ってしまった。
「無理するな。肩を貸してやる」
慎二の両肩を左右から梓と絵利香が抱きかかえるようにして、立ち上がらせる。
「すまねえな。無様なところを見せてしまって」
「なあに、おまえにも人並みなところがあると知って安心したよ」
慎二の手が丁度梓の胸元あたりでぶらついている。
ちょっと手を曲げれば胸を触ることができる位置にある。
そのことに梓と慎二は、ほとんど同時に気がついていた。
もんもんとする慎二だが、梓もその気配を感じ取ったのか、機先を制するように言った。
「おい。どさくさに紛れて胸を触るなよ」
「だ、誰が、触るもんか」
「ふん。どうだか。ちょっとでも触れてみろ、絶交だからな」
その時、背後で車の停まる音がしたかと思うと、
「慎二おぼっちゃまじゃないですか」
という声が聞こえた。
三人が振り向くと、黒塗りのクラウンから運転手が降りて来る。
「近藤!」
「やっぱり、慎二おぼっちゃまでしたか」
慎二と近藤と呼ばれた運転手のやりとりを聞いていた梓だったが、腹を抱え涙流して笑
い転げだした。
「おぼっちゃまだって、きゃははは」
「なんだよ。俺がおぼっちゃまと呼ばれておかしいか」
言われてじっと慎二の顔を見つめる梓。
「似合わん」
きっぱりと言い放つ。
「誰も乗っていないようだが……」
「はい、お客様をご自宅へお送りしての帰りですので」
「どうでもいいけど……。いつまで、わたし達に肩車させておくつもり?」
「ああ、これは申し訳ありませんでした。お坊ちゃま、車にお乗りください。お医者のと
ころにお連れします」
といいながら、二人の手元から慎二を抱きかかえるようにして後部座席に座らせた。
「お医者さまのところに寄ってから、ご自宅に向かいます」
「お嬢様方もお乗りください。ご自宅までお送りします」
「それよりも、慎二君の家に案内していただけないかしら」
「そうそう、友達なんだから家くらいは教えてもらいたいわね」
「お坊ちゃま、いかがいたしますか」
「案内してやれよ。成金主義の邸宅を見せるのも一興だ」
「成金主義?」
「行けば判る」
「あ、そう……」