続 梓の非日常/第五章・別荘にて
(一)朝のひととき
朝の光がカーテンごしに淡く差し込む寝室。
ベッドの上で仲良くまどろむ梓と絵利香。
専属メイドを従えた麗香が入って来る。ベッドの傍らに静かに立ち、二人の寝顔を
見つめている。
「可愛い寝顔だこと。まるで天使みたい……ふふ、食べちゃいたいくらい」
メイドの一人が軽く咳払いして注意をうながした。
「麗香さま」
「そ、そうね。じゃあ、みなさん。はじめてください」
ベッドメイク係り、衣装係り、ルーム係りなどなど、それぞれの役目を負ったメイ
ド達が配置につく。
ルーム係りのメイドが、カーテンを開けて、朝の日差しを室内に導いた。
まぶしい光に、うっすらと目を開ける二人。
「お嬢さまがた、朝でございますよ」
そっとやさしい声で、目覚めをうながす麗香。
ゆっくりとベッドの上で起き上がる二人。まだ眠いのか目をこすっている。
「んーっ。おはよう」
両手を広げ、大きく伸びをしながらあいさつをする梓。
「おはようございます。お嬢さま」
メイド達が一斉に明るい声で朝の挨拶をかわす。
「おはようございます。麗香さん」
「はい。おはようございます。絵利香さま」
ドレッサーの前に腰掛けた梓の長い髪を、麗香がブラシで丁寧に解かしている。ニ
ューヨーク時代に梓の面倒をみるようになっていらい、メイド主任を兼務して多くの
メイドを従えるようになっても、梓の髪だけは誰にも触らせなかった。
梓ほどの細くしなやかで長い髪となると、その日の気温や湿度、あるいは梓の体調
によっても、微妙に梳き方を変える必要がある。梓の気分次第によって、三つ編みに
するとか、前髪を軽くカールしたり、りぼんをあしらったり、ヘアスタイルを適時適
切にアドバイスしてさし上げる配慮も忘れてはならない。梓の好みは、基本的にはス
トレートヘアではあるのだが。梓のほうも、女の命ともいうべき髪について、麗香に
安心して任せていた。
ショートヘアで気軽な絵利香の方は、すでに身支度を終えてバルコニーの方に出て
朝の空気を吸っていた。
「今日は良いお天気で、とてもすがすがしい朝でございますよ。お食事の前に、お散
歩でもなされるとよろしいでしょう」
「ん。そうする」