思いはるかな甲子園
■ 野球部へ ■
野球部部室。
練習開始前のミーティングで、部屋の中に集まっている部員達。
「今日も来るかな、あの子達」
「来るんじゃないかなあ」
「いっそマネージャーになってくれたらいいのにね」
「ああ、何にもしなくてもいいから、じっと見守ってくれるだけでもいいよ」
「おまえら、何いってんだ」
その時、部室のドアがノックされる。
「誰か、来たみたいですね」
「どうぞ、入ってください」
戸口そばに座っていた二年生の木田孝司が返事をする。
しかしドアを開けて入ってくる気配がない。
「ん、どうしたのかな。木田、おまえ見てこい」
木田に向かって命令する山中主将。
「はい」
木田がドアの所へ行って、扉を開け外を確認する。
そこには微笑んでいる梓が立っていた。
「き、君は!」
「こんにちは」
一斉に振り向く一同。
「今の声は!」
「梓ちゃんじゃないのか?」
「なに、梓ちゃん!」
木田を押し倒してドアに殺到する部員達。
「やっぱり、梓ちゃんだ」
「絵利香ちゃんはきてないの?」
「うん。今日はテニス部の練習」
「あ、そうかテニス部って言ってたっけ」
「で、梓ちゃんは、何しに来たの?」
「うん。キャプテンいますか?」
部屋の中をちらりとのぞく梓。
「ああ、キャプテンね。いますよ」
山中主将に視線が集中する。
「キャプテン、梓ちゃんが面会ですよ」
「梓ちゃんだとお。こっちに呼んでこい」
「なにいってんですかあ。かわいい女の子が、こんなむさ苦しい部室の中に、入って
これるわけがないじゃないですか。キャプテン出てきてくださいよ」
「ったくう……」
山中主将、しぶしぶ外に出てくる。
梓を囲むようにしている部員達。
「おまえらなあ……ぼさっとしている暇があったらグラウンドへ行け!」
右手の拳を振り上げて怒鳴り散らす山中主将。
蜘の子を散らすようにグラウンドに駆け出す部員達。
「ほれほれ、早く行かんか」
とろとろ歩いている部員の尻を蹴飛ばして、グランドに押しやる武藤。
「ったく、しょうがない連中だ」
ぶつぶつ呟きながら、副主将の武藤の采配で一同が練習を始めるのを見届けてから、
梓に話しかける山中主将。
「で、キャプテンの山中だけど、僕に何か用かい?」
部員達に対しては怒声を上げる山中主将であるが、可愛い顔で微笑む梓を前にして
は、さすがに口調もやさしくなる。
「はい」
鞄を開けて中から一通の書状を取り出して主将に渡す梓。
「これは?」
梓、にっこりと微笑んでいる。