女性変身! ボディースーツ!!

女性に変身することのできるスーツが完成した。しかし……


「社長! 新製品ができました!!」
 と飛び込んできた研究員がいる。
 最近、このパターンが多い。
「君は確か……。ラテックス事業部の研究員だったな」
「はい。その通りです」
 我が社は製薬会社であるが、薬局や薬店で取り扱っているような商品はすべて研究
開発・販売をおこなっている。ティッシュから洗剤はもちろんのこと、家庭生活の必
需品コンドーム……。コンドームといえばラテックスが材料である。その研究員はそ
のラテックス事業部の開発部門の研究員だった。
「実は、インターネットを見ていて、面白いサイトを発見したのですが……」
「ほう……。インターネットかね」
「はい。なんと! 女体変身ボディースーツというものを製造販売しているんです」
「女体変身ボディースーツ?」
「論より証拠です。そちらのパソコンで見てみますか?」
 社長室にはインターネットに接続されたパソコンが置いてある。
「おう。やってくれ」
 それにしても女体変身ボディースーツとはな……。
 研究員がパソコンを起動させてインターネットに接続させると……。



「なんだこれは?」
 ロングヘアーのナイスボディーの女性の写真が目に飛び込んできた。
 そして何やら不気味な皮?
「判りますか? 一見女性に見えるこの人、実は男性なんです」
「ほんとかよ。こんな巨乳だし……。豊胸でもしているのか?」
「顔を良く見てください」
「顔……? なんか化粧が濃いな」
「その顔は、マスクなんですよ。マスクを被っているんです。男性が女性の顔のマス
クを被り、女性の姿のボディースーツを着込んでいるんです」
「ほんとかよ。どう見ても化粧の濃い女性にしか見えないぞ」
「写真ですからね。解像度の問題で詳細がつぶれていますから」
「なるほどね。で、この女性の格好の男性と、新製品とどういう関係があるのだ」
「はい。この女性変身ボディースーツやマスクはラテックスで作られているんです」
「ラテックスか?」
「はい。それを参考にして、試作したのがこの変身スーツです」
 と、取り出したのが、実に珍妙なるものだった。
「そのサイトではラテックスを使っていましたが、同じものでは二番煎じ。そこで新
開発の人工皮膚を使って似たようなものを製作してみました」
「人工皮膚を使ったのか?」
 そうなのだ。
 確かにラテックスは人間の肌に近いものがあり、コンドームに利用される他に、義
指・手や義足などの表面を覆う素材として利用されてきた。がしかし所詮は人工製造
物でしかなく、触ればすぐにそれと判るし老朽化も早い。
 そこで人工皮膚の登場である。
 その主題の根本精神は皮膚移植に利用しようというものだった。
 おおやけどを負った患者には皮膚移植を行わなければならないが、自家移植では足
りない広範囲のやけどでは、死んだ人からの皮膚の移植が必至である。ところがこれ
がなかなか入手困難である。かの有名なサハリン熱傷少年国際救助事件でも移植用の
皮膚の確保に苦労したという。
 そこで人の肌の感触により近づけるように工夫し、且つ免疫における抗体抗原反応
を引き起こさない、特殊な人造蛋白合成技術を使った人工皮膚の開発に着手したのだ
った。おおやけどを負った患者にこれを移植すれば細菌感染を防げると同時に、時間
の経過と共に自分自身の皮膚の細胞が浸潤してきて、やがてすべてが自分の皮膚に置
き換わっていくというものだった。

「この乳房は、我が社開発の特殊人工乳房jk−273号を使用しています」
「273号?」
 それは乳癌治療のために開発された。
 乳癌となれば乳房の全摘出をするのが、転移をも考えて乳腺の全摘出するのが最善
であるが、当然として乳房を失う結果となる。
 最近の乳癌治療といえば、乳房の形状を残して一部の癌組織だけを摘出して、抗が
ん剤や放射線線治療などを行う温存療法が主流となってきているが、乳腺を残す限り
再出現の可能性は高い。
 やはり転移や再出現を考えれば、全摘出が一番である。そこで乳房再構築手術用の
プロテーゼとして開発されたのが我が社の特殊人工乳房である。
 乳房再建には、大別してプロテーゼ挿入法(生理食塩バック・シリコンバック)と
脂肪注入法とがあるが、あくまで見た目を再建するだけのものである。プロテーゼは
簡易に望むだけの大きさの乳房を形成できるが、時間経過により硬くなってしまうと
いう欠点があり、毎日適度に揉み解す必要がある。これは皮膜拘縮と呼ばれていて、
アコヤ貝における人工真珠の製造でもおなじみであるが、生物の拒絶反応の一種とし
て、異物に対してそれを覆うようにして皮膜が発生して硬くなってくる現象である。
また脂肪注入法は拒絶反応などはないが、ただの脂肪であるだけに、本来の弾力性
(つまりポヨヨーンと弾んだりする特性)が足りないとか、その形状をなかなか維持
できないという欠点がある。
 しかし我が社の人工乳房は、人工皮膚で培った特殊人工蛋白質による乳腺組織を持
った、より本物に近い乳房を作り出すことができる。それも時間の経過と共に自身の
細胞が浸潤繁殖して、やがて本物の乳房となり、妊娠後には授乳さえも可能となる、
夢の人工乳房である。その最新型が「特殊人工乳房開発ナンバー、jk−273号」
である。乳癌全摘出手術と同時に行われる再建手術用のアイテムである。最新素材で
あるがゆえに百万円以上はかかる品物だが、乳癌治療としての保険適用の申請をして
いるので、それが認められれば誰にでも実施できるようになるだろう。もちろん全額
自費出資すれば、美容外科としての豊胸手術も可能である。
「おまえなあ……。この変身スーツはあくまでお遊びアイテムだろう。それに我が社
のトップシークレットでもある、jk−273号を使うとは……。何を考えておるの
だ」
「はあ……」
「お遊びアイテムなら、ラテックスやシリコン素材で十分だろうが。価格のことは考
えたのか? 誰が、お遊びアイテムに数百万の金を出すか? こんな変身アイテムに
つぎ込むくらいなら、いっそのこと自分自身に直接豊胸手術した方が良いに決まって
いる。そんなことも判らないのか!」
「はあ……。ごもっともで」
「まったく……。研究家というやつは……どうしてこうも、まともな考え方しないん
だ。とにかくだ! その変身スーツの商品化は却下だ。判ったな!」
「……判りました」
 完全にうなだれてしまった研究員。
「ところで……。これはどうしましょうか?」
 と変身スーツを指差す。
 体よく言えば、頭の先から足先まで、完全に女性の裸身を模した着ぐるみであった
のだが……。
 そうか……。
 作ってしまったものはしようがないとしても、さてどうしたものか?
 捨てるわけにはいかないだろう。
 何せ人工乳房だけでも販売価格にすれば数百万円はするだろうという代物である。
 せめて宣伝広告用にでも、何かの機会に参考出品しなければ元が取れない。
「それにしても……。このマスクはおまえの趣味か?」
「ええ……。その通りです」
 どこかのアイドル女優を型取りしたような感じであった。
「まあ、確かに美人ではあるがな」
「ですよね。どうせなら、美人の方がいいと思いまして」
「で、ちなみに……これは、どういう具合に着用するのだ」
 まあ、何にせよ。
 実際に着て見てみないと、この着ぐるみの評価ができない。
 そこで、自分で着てみることにしたのだ。
「判りました。まずは裸になってください」
「裸になるのか?」
「そうしないと服のラインが出てしまいます」
「なるほどな」
「はい。全部脱いでください」
 結局、パンツまで脱がされて素っ裸にされてしまった。
「それではまず、足先から入れてみてください」
 それは、背中がファスナーで開くようになっていて、ジャンプスーツのように足先
からまず差し入れていく。が、ラインが出ると心配した通りに、肌にぴったりと密着
するようにできている。そうだな……サポートタイプのパンティーストッキングを履
くときのことを想像してくれ。あの感じだ。
 え?
 男はパンストを履くことはないし、なんでその事を知っているのか?
 だって……?
 簡単だよ。
 例の研究員のせいで、何度女性に変身させられたか……。
 だからだよ!
 今は元の男性に戻っているがな。
「き、きついな……」
「はい。多少きつくないと弛みができてしまいますから。でも、十分に伸びる人工皮
膚ですから大丈夫です。もちろん空気も通すので、皮膚呼吸を阻害することはありま
せん」
「そうか……」
「このファスナーも生体培養素材でできていまして……」
 ファイルを整理して入れるクリアケースを想像して欲しい。
 それに使われるジョイロン(レールファスナー)と呼ばれるファスナーがあるが、
それを人工皮膚の素材で製作されたものである。臓器移植を行った場合には、拒絶反
応を起こして再手術の必要を生じることとなるが、この生体ファスナーを使用すれば、
再手術にもファスナーを開けばいいだけである。手術の際に針と糸とで縫合する場合
にはどうしても手術痕が醜くできてしまう。人工皮膚によるファスナー縫合ならば、
見た目にも手術をしたとも判らないほどの成果があるし、長期に放置しておくとやが
て皮膚組織が再生して完全に癒着してしまう。
「しかしこいつは一人では着れないな」
 何とか足が通った。
 次は頭である。
 ファスナーの付いているのは背中だけである。
 だから先ず足を通し、次に頭を入れる順番でないと着れないのだ。
 とにかく……。
 この女性変身スーツは、頭の先から足先まで完全一体成型である。
 頭の部分は、いわゆるどこにでもあるマスクの通りに目と鼻そして耳の部分に穴が
明いていて、そこから外界に通じている。
 頭を入れれば、もはや着ている人間が誰か……。まったく判らなくなる。

 それにしても……。
 ほんとにこいつ……。着込むのが本当に難しく、苦しいくらいだ。
 格闘、十数分!
 スーツに身体を入れ終わり、ファスナーを閉じると……。女性変身の完成である。
「はい! 終わりました。鏡に映して見てみますか?」
 と言いながら隅に置いてあった姿見を持ってくる。
「そうだな……」
 早速、姿見に映してみる。
 そこには、実に素晴らしいプロポーションを持った美しい女性が映っていたのであ
る。
 豊かな形の良い乳房、張りのある大きな腰周り、ウエストもスーツの持つ弾力性に
よって絞られて細く締まっていた。
「なかなか……。上手くできているな。うん、どうせなら衣装も着てみたものだな」

「実は……。そう仰るだろうと用意しておきました」  というと別の紙袋から、女性用のドレスとパンプスを取 り出した。 「準備がいいな。おまえ……」 「企画というものは、すべからく準備が肝心ですから」 「おい。重役会議で、こんな企画は聞いたことがないぞ。 おまえの勝手な企画だろうが」 「え、あはは……」  笑ってごまかす研究員だった。  まあ、ともかく裸ではどうしようもない。  せっかく女性の身体をしているのだ。  女性の衣料を着てみて完璧というものである。  早速、研究員が用意してきたドレスを着てみることにした。 「ほう……」  感心した。  どこからどうみても、女性としか映らない。  完璧な変身であった。 「外を出歩いてみたらどうですか?」 「できるわけないだろう! 恥ずかしいじゃないか」 「え? どうしてです? 変身スーツを着ているんですよ。 誰だか判らないんですから、恥ずかしがることもないんじゃ ないですか?」
「なるほど……」  それもそうだな。  この女性の格好をした中身が、社長つまり私とは誰も区別がつく訳がないか……。 「ちょ、ちょっと出歩いてみるかな……」 「そうしてくださいよ。実際に歩いてみないことには、その変身スーツの着心地とか 判らないですからね。でないと、改良点とかも……」 「おい。何で改良する必要があるんだ? 開発は中止だとさっき言ったばかりだろ う」 「あ……。そうでした。申し訳ありません」  再びうなだれる研究員だった。  ともかく、この変身スーツの評価をする一環として、部屋を出て外を歩いてみるこ とにした。  社員に一目で見抜かれてしまっては完全に商品価値はなしである。  もし、そうなれば研究員は……。 「減棒だな」  数百万もの制作費が掛かるものを無断で製作したのであるから当然であろう。   「しかし、どうせなら女性用の制服にすれば良かったのにな」  まったくこれじゃ、目立ちすぎてしようがなかった。  通りがかる社員のほとんどから注目され、すれ違った後にも立ち止まり振り返って しばらく見つめているのだ。私と目が合うと慌てて目を伏せて足早に立ち去っていく。  声を掛けて来る者はいなかった。  これだけの美人(偽者ではあるが……)だ。  さすがに躊躇してしまうのだろう。 「気持ちは判るがな」  しばらく社内を歩いてみたが、誰も気づいている様子のものは見受けられなかった。  間近でじっくりと観察すれば判るだろうがな……。  まあ、そんな勇気ある軟派な野郎は、この会社にはいない。 「しかし……。暑いな」  腕を見ると、人工皮膚の表面からうっすらと汗が滲みでていた。  そう、これがこの人工皮膚の特徴なのである。  皮膚には汗や空気が通過できるように、極微細加工による通気孔が施されているの である。 「さてと……。このくらいで十分だろう」  いくら人工皮膚の変身スーツとはいえ、さすがにこの暑さには耐えかねる。  社長室に戻ることにした。  「お帰りなさいませ。いかがでしたか?」  研究員が出迎えた。 「なかなかのものだな」 「でしょう?」  明らかに期待を持った表情をしていた。 「だが、開発は認めない!」  がっくりと肩を落とす研究員。  確かに素晴らしい変身スーツかも知れないが……。  着ている女性の衣料を脱ぎながら考える。  なんにしても、あまりにも制作費が掛かりすぎるのだ。  乳癌治療の乳房再建手術用としてのように、保険がきかないととても手が出せない のである。  売れないと判断できれば開発はなし。  企業として当然の結論である。   「あれ?」 「どうしたのだ」 「ふぁ、ファスナーが……開きません……」 「なに?」  一生懸命にファスナーをいじっているがどうもこうも動かないようだった。 「あ! 壊れちゃいました」 「なんだとお!」  それから数時間、ファスナーを開ける努力を続ける研究員だったが……。 「やっぱり、だめです。どうしても開きません」 「と……いうことは、しばらくこのままというわけか?」 「はあ、そういうことになりますね」 「気楽に言うなよ」 「申し訳ありません」 「しかし……。参ったなこれじゃ……」  着るのにも脱ぐのにも、誰かの手助けが必要な変身スーツである。  女性の格好をしている以上、元の男性の衣服を着るわけにはいくまい。  仕方なく、また女性のドレスとハイヒール姿に戻ることにした。  それから、社長室を出て社員の好奇な目に晒されながらも会社を出て、 自宅に戻った。  もちろん研究員には、この変身スーツを脱ぐ方法を明日までに考え出す ように言い残してである。  さてと、シャワーを浴びて、汗を流したいところだが……。  変身スーツを着込んだままである。  シャワーを浴びてもなあ……。  がしかし……。  変身スーツのすべてを知るにはいい機会かも知れない。  スーツを着たままでシャワーを浴びれるか?  その評価を下すためにも、試してみることも必要であろう。  ともかく、何をするにも評価である。  この際だ、いろいろと試してみよう。  というわけで、ドレスを脱いで裸になり……。  実際には着ぐるみだが……。  バスルームに入る。  シャワーを捻ってお湯を出し、熱いお湯に身体を浴びる。 「おお! なかなか気持ちがいいじゃないか」  変身スーツを着てはいるが、さすがに我が社の最新技術を誇る人工皮膚だった。  温度の上昇と共に出てくる汗は、人工皮膚の極微細通気孔から外へ排出され、シャ ワーで流される。  ほとんど素肌感覚であった。 「この人工皮膚を開発した研究員の俸給を上げてやるか……」  もちろん人工皮膚(開発コードjm−194号)と人工乳房(開発コードjk−2 73)を開発したのは、この変身スーツを製作した彼ではない。他の研究素材を流用 しただけである。  こんな事態になった彼は……。  減棒! である。  汗を流し、さっぱりとしていると電話が掛かってきた。  彼であった。 『言い忘れていたんです。変身スーツの人工皮膚は熱を加えると、変性して完全密着 してしまうんです」 「なんだとお! ほんとかそれは?」 『ですから、お風呂とかに入らないで……』 「バカモノ! もうとっくにシャワーを浴びてしまったぞ」 『えええええ! 本当ですか!!』 「今風呂上りのビールを飲んでいるところだ。で、完全密着するだと?」 『はい。間違いありません』 「何でそれを言わなかったのだ!」 『だから、忘れていたと……』 「今すぐ、こっちへこい! すぐ来い!! 飛んで来い!!!」  言うだけ言うと、がちゃんと荒々しく電話を切る。  ほんとうかよ!  完全密着だと?  もはやこの変身スーツを脱げないということか?  つまり一生、この女性の姿のままというこなのか?  その研究員は、二十分後にやってきた。  大汗を流し、ハンカチでしきりに拭いながらも変身スーツの状態を調べていた。 「だめです……。密着融合してしまっています。社長の肌と人工皮膚とが完全同体化 しています」 「つまりこの表面の肌は生体化して……私自身の肌になってしまったというのだな」 「はい。その通りです」 「気安く言うなよ!」 「も、申し訳ありません」  まいったな……。  変身スーツは完全に私自身の肌と密着融合してしまった。  もはや脱ぐことは不可能になってしまったということである。  無理に引き剥がそうとすると本来の皮膚まで一緒に剥がれてしまうということであ る。  見た目には確かに女性そのものである。  この豊かな胸は、現在のところはjk−273という人工乳房であるが、やがて私 自身の細胞が浸潤し増殖を繰り返して本物の乳房になってしまう。  女性特有の大きな腰回りも同じように本物の脂肪細胞に置き換わってしまうはずだ。  見た目の姿は、いずれ本物の女性の姿に変身してしまうのだ。  しかし内面は男性のままだ。  生殖器も何もかも……。  ふう……。  私は思わず深いため息をついた。 「あの研究員を呼ぶか」  そう……。  性転換を研究している『あいつ』である。  それから数ヵ月後……。  私は性転換し、女性社長となった メニューに戻る