1.痛風とは?(定義)
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
3.この病気はどのような人に多いのですか?(男女比・発症年齢)
4.この病気の原因はわかっているのですか?(病因)
5.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
6.この病気ではどのような症状がおきますか?(症状)
7.この病気にはどのような治療法がありますか?(治療)
8.この病気はどういう経過をたどるのですか?(予後)
9.よく聞かれる質問とこたえ(FAQ)
1.痛風とは?(定義)
この病気は古く西欧ではpodagra(ギリシャ語のpous=foot, agra=attackの複合語)といわれ、歩行が困難になる病としてHippocratesが記載しています。痛風という語はラテン語の"滴"に由来します。すなわち古代の人達にはこの病気は何らかの毒素が関節に蓄積して発症すると信じられていました。しかし一つの疾患単位として確立したのはSydenhanが自分の罹患している痛風の症状を詳細に記載した17世紀であります。18世紀になるとScheeleが尿路結石から、Wollastonが痛風結石から尿酸を確認し、痛風と高尿酸血症との関係を証明したのは1848年のGarrodです。20世紀になるとFischerにより尿酸の化学構造が決定され、プリン代謝の研究は急速に進展しました。さらにLeschとNyhanによる知能障害、不随意運動、自傷行為に高尿酸血症を伴う症例の報告(Lesch-Nyhan症候群、1964)、同症候群におけるhypoxanthin-guanin phosphoribosyl transferase(HGPRT)活性酵素欠損の発見など研究の著しい進歩があります。痛風性関節炎は尿酸が関節内で結晶化し、これが関節腔に遊離すると白血球に貪食されておこる関節炎です。
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
痛風の発生頻度は時代、地域、人種、性別、社会階層により異なります。わが国では40万人と推定されています(0.3%)。昔は高貴な家系の病気で帝王病ともいわれていました。高尿酸血症に関して遺伝的な要因と環境の相互作用がフィリピン人で示されています。すなわち、アメリカに住むフィリピン人はフィリピンに住む人々よりも血清尿酸値が著明に高値を示しています。これは多くのプリン体を含むアメリカの食事に尿酸排泄能が適応できないからと考えられているからです。
3.この病気はどのような人に多いのですか?(男女比・発症年齢)
痛風の1/4の症例に家族歴が見られます。痛風は主に中年もしくはそれ以後(ピークは40〜50才)の男性(患者の85〜90%)と閉経期以後の女性が罹患します。男女比は約20:1 で圧倒的に男性が多く、アルコールを好む人や肉食を多く摂取する人に好発します。遺伝的HGPRT欠損や先天的高尿酸血症を来たす他の酵素異常はまれですが、これらの疾患では20才以前に痛風が発症します。
4.この病気の原因はわかっているのですか?(病因)
原因:体内にあらかじめ存在する尿酸を尿酸プールといいますが、これは正常では1200mgあり、肝臓、腎臓、靭帯、腱、結合織などの組織に分布しています。このうち1日に700mgが排泄されますが、ほぼ同量の尿酸が産生されて平衡を保っています。尿酸は体液では難溶性の物質で、その溶解度は結漿中では8.0mg/dlです。これ以上の高濃度では過飽和の状態で関節軟骨や滑膜、その他の組織に針状結晶として析出しやすくなります。
a. 尿酸の産生:尿酸は4つのルートで産生されます。 | |
1) | 食事性プリン由来の尿酸:食べものの中の核蛋白は蛋白分解酵素により核酸と蛋白質に分解されます。核酸はさらに分解されて腸管より吸収され尿酸になります。ヒトでは多くの動物と異なり、尿酸分解酵素ウリカーゼを欠損していますので尿酸がプリン代謝の代謝最終産物であります。 |
2) | 細胞崩壊由来の尿酸:炎症や腫瘍、抗癌剤の使用により細胞の崩壊がおこりますと、核蛋白から核酸が放出され、これが肝臓で尿酸まで分解されます。 |
3) | プリン生合成:プリン体の生合成はある酵素が作用してPRPPという物質がつくられ、これにグルタミンなどが加わり、10の反応を経てイノシン酸が合成されます。イノシン酸はその分解経路によりあるものは尿酸にまで分解されます。 |
4) | レッシュナイハン症候群ではHGPRTという酵素が欠損しているためサルベージ回路が作動せず、相対的にPRPPの過剰となり、プリン生合成が亢進し、高尿酸血症がおこると考えられています。 |
b. 尿酸の排泄:1日に排泄される700mgの尿酸のうち400mgが腎臓より、300mg が消化管や汗腺から排泄されます。腎臓では糸球体で濾過された尿酸が近位尿細管で100%再吸収され、ついでその50%が分泌され、さらに遠位尿細管で40〜44%が再吸収されて、結局10%弱が尿中に排泄されると考えられています。 |
(アメリカリウマチ協会、1977) | |
1. | 尿酸塩結晶が関節液中に存在 |
2. | 痛風結節 化学的もしくは偏光顕微鏡検査で尿酸結晶が存在することの証明 |
3. | つぎの12項目中6項目 a.1日以内に極限に達する炎症 b.発作の反復 c.単関節炎 d.関節の発赤 e.母趾MP関節の疼痛あるいは腫脹 f.一側の足MP関節 g.一側の足根間関節 h.痛風結節の疑い i.高尿酸血症 j.関節の非対称的腫脹 k.ビランのない骨嚢胞 l.無菌性関節炎 |