難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

骨粗鬆症

1.骨粗鬆症とは?(定義)
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?またどのような人に多いのですか?(疫学・頻度・男女比・発症年齢)
3.この病気にはどのような類型があるのですか?(類型)
4.この病気の原因はわかっているのですか?(病因)
5.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
6.この病気はどのようにして診断しますか?(診断)
7.この病気はどのような症状がおきますか?(症状)
8.この病気はどのような人に発症しやすいですか(危険因子)
9.この病気にはどのような予防法・治療法がありますか?(予防・治療)

1.骨粗鬆症とは?(定義)
骨粗鬆症とは、「骨塩量の減少によって骨微細構造の破綻をきたし骨強度が低下し骨折に対するリスクが高まった全身性疾患」と定義されています。骨粗鬆症を診断する上でまず念頭におくべきなのは骨量を減少させる様々な基礎疾患の存在です。様々な内分泌異常、カルシウム吸収障害などは二次性 (続発性)骨粗鬆症の原因となります。関節リウマチも二次性骨粗鬆症の原因となる疾患のひとつに数えられます。関節リウマチ患者においては、罹患関節周囲の傍関節性骨粗鬆症の他に、全身性のステロイド性骨粗鬆症および疼痛による廃用性骨粗鬆症が多くみられます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?またどのような人に多いのですか?(疫学・頻度・男女比・発症年齢)
現在日本には1000万人の患者さんがいると推定されており、女性が全体の7割を占めるとされています。地域によって発生率にばらつきがあり、日本全体としては西高東低の傾向がみられます。わが国をはじめとしたアジア地域における大腿骨頚部骨折発生率は、欧米白人に比べて低値で、アジア人は白人に比べて骨折を来しにくいと考えられています。

50代の女性の21%、60歳代の48%、70歳代の67%、80歳代の84%とされています。骨粗鬆症に伴う骨折に関して言えば、日本人女性の有病率は70-79歳が25%、80-89歳が43%であり好発部位は下位胸椎、腰椎です。橈骨遠位端骨折は転倒の際手をついて身をかばうために生じる事が多くありますが、骨量の減少のみでなく身体の動揺性が影響することが多いとの報告もあります。

現在、90万人はいるとされる、寝たきりの原因の第3番目が骨粗鬆症による骨折です(第1番目が脳卒中、第2番目が高血圧)。

3.この病気にはどのような類型があるのですか?(類型)
Riggsらは退行期骨粗鬆症を、発症年齢・病因・臨床症状からI型(閉経後)骨粗鬆症とII型(老人性)骨粗鬆症の二つに分類しましたが、実際には退行期骨粗鬆症はこの2つの病態がオーバーラップして存在することが多く、2つの異なった型として分類することは困難です。閉経後エストロゲンの欠乏によって骨の代謝回転が亢進して(high turnover)骨吸収が骨形成を上回る結果、骨量が減少するのがI型,その後老化に伴って骨の代謝回転が低下して(low turnover)骨形成の低下が骨吸収の低下より優位になって骨量が減少するのがII型と定義されています。

4.この病気の原因はわかっているのですか?(病因)
骨粗鬆症の発症機序については、様々なメカニズムが示唆されていますが、現在も分子細胞レベルでの検討が行われています 。最近、破骨細胞(骨を溶かすホルモン)が注目されています。

5.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
一般的に遺伝性は認められていませんが、2次性のものの一部は遺伝するものもあります。

6.この病気はどのようにして診断しますか?(診断)
1994年のWHOの白人女性の骨粗鬆症診断のガイドラインによると
1) Normal: 骨密度が若年成人の平均の-1SD以上

2) Low Bone Mass (Osteopenia): 骨密度が若年成人の平均の-1〜-2.5SD

3) Osteoporosis: 骨密度が若年成人の平均の-2.5SD以下

4) Established Osteoporosis: 3)に骨折を伴うもの

と定義されています。1996年には若年成人の平均骨量の代わりに若年正常女性の平均 ピーク骨量が用いられています。本邦でも日本骨代謝学会によりX線上椎体骨折の有無と骨量の評価により原発性骨粗鬆症の診断基準が提唱されています。この診断基準の基本的な考え方は、骨粗鬆症に類似した疾患の鑑別を十分に行っていること、骨萎縮度分類または骨塩測定によって骨量の判定を行っていること、および椎体骨折の有無を分類していることです。

骨粗鬆症の診断にはまず、単純レントゲン写真による骨折・骨萎縮の評価が行われます。これには、大腿骨頚部におけるSingh分類や、椎体における慈大式分類があります。これに加えて骨塩量測定による定量化も汎用されています。Dual energy X-ray absorptiometry (DXA), quantitative computed tomograghy (QCT), peripheral QCT (pQCT), Quantitative ultrasound (QUS)などが現在よく用いられている方法です。

また、骨粗鬆症の骨代謝動態、骨量減少の予防、および治療に対する効果を検討する目的で、血中および尿中の骨代謝マーカーが広く臨床の現場で用いられるようになってきています。血中オステオカルシンは最も汎用されている骨形成マーカーであり、分化した骨芽細胞により産生・分泌される基質蛋白です。骨形成の促進に伴ってその血中濃度は上昇します。しかしながら、主に腎から排泄されるためその血中濃度は腎機能障害患者では上昇することがあります。アルカリフォスファターゼ (ALP)のアイソザイムの内、骨型アルカリフォスファターゼ (B-ALP)を特異的に測定する方法が主流になっておりオステオカルシンと並んで骨形成機能の測定に用いられています。

骨吸収マーカーの代表は、尿中ピリジノリン (Pyr)およびデオキシピリジノリン (D-Pyr)です。共にコラーゲン分子の合成分泌後にコラーゲン細線維間の架橋成分として基質中で形成されます。骨基質中に多く存在し、特にD-Pyrは骨に特異性が高いが、Pyrは関節軟骨にも含まれD-Pyrより骨特異性が低いです。しかしながら、骨の代謝回転の方が軟骨よりも明らかに高いため、骨由来のものが大部分を占めます。両者とも骨吸収による骨基質の溶解によってのみ遊離するため、特異性の高い骨吸収マーカーとなります。尿中ハイドロキシプロリンはコラーゲン代謝産物であり、従来骨吸収マーカーとして汎用されていましたが、食事の影響を受けやすく感度、特異性が低いため最近はPyr / D-Pyrに取って変わられています。血中骨吸収マーカーとしては、破骨細胞に由来する酒石酸抵抗性の骨型アイソザイムである酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ (TRAP)が有望な骨吸収マーカーとして臨床応用が試みられています。

7.この病気はどのような症状がおきますか?(症状)
退行期骨粗鬆症の臨床症状としては、変形、胸腰背部痛、そして骨折の3つがあげられます。変形は主として椎体の圧迫骨折に起因するもので、身長短縮、円背、亀背などを呈します。胸腰背部痛は慢性に進行すると言われている椎体の微小骨折、骨組織の支持性の低下あるいは変形に伴う胸腰背部筋群への負荷の結果と考えられています。しかしながら、これら2つの臨床症状は変形性腰椎症(へんけいせいようつうしょう)でも見られることが多く、鑑別に注意を要します。骨粗鬆症と変形性腰椎症が相反する疾患であるかどうかということは、議論の分かれるところですが、骨折という点では前者は減少し後者は増加するという側面は持っているものの、両者が合併している症例も多く存在することも事実です。骨粗鬆症は骨の変性に、変形性腰椎症は椎間板変性に起因する疾患であり、さらには前者が比較的ホルモンなどの全身因子の影響が大きいのに対し、後者は力学的負荷に代表される局所環境が重要な因子であることを考えると、必ずしも相反する疾患として捉えるのではなく、個々の症例に対して病態と症状を十分検討して治療方針を決定することが必要です。
骨粗鬆症に伴う骨折としては、大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ、椎体圧迫骨折(ついたいあっぱくこっせつ)、橈骨遠位端骨折が代表的な骨折としてあげられます。大腿骨頸部骨折は転倒により発症することが多く、一般に手術的治療が行われ近年の治療技術の進歩により寝たきりの原因となることは殆どなくなってはいますが、それでも術後のQOLは受傷前に比べ低下することが多い。1992年の調査では年間8万人がこの骨折を来しており、現在も増加傾向を示しています。高齢者の本骨折のほとんどが骨粗鬆症によるものであり深刻な社会的問題となっています。椎体圧迫骨折は骨粗鬆症に伴う最も頻度の高い骨折で急性期には激しい腰背部痛を訴えることもありますが、その後の脊柱変形により異常なストレスが筋、筋膜、椎間関節、神経組織に加わることにより生じる慢性腰背部痛、円背、身長の低下などを来します。

8.この病気はどのような人に発症しやすいですか(危険因子)
内的因子、外的因子、続発性に分けて以下に示します。

内的因子
ホルモン因子:女性、閉経卵巣機能不全
加齢因子:高年齢
遺伝因子:人種(白人、アジア人)、家族歴

外的因子
運動因子:運動不足、臥床
栄養因子:痩せ(低栄養、ダイエット)、カルシウム不足、ビタミンD,K不足
生活習慣因子:喫煙、アルコール、コーヒーの多飲、日照の不足

続発性
ステロイドの服用、胃切除、卵巣摘出術、副甲状腺機能亢進症、糖尿病、腎不全、肝不全

9.この病気にはどのような予防法・治療法がありますか?(予防・治療)
骨粗鬆症の予防と治療の基本はリスクファクター(日照の不足、活動性の低下、過度のアルコール摂取、喫煙、ステロイドなどの薬剤)の回避であり、他の成人病と同様に食事、運動療法が重要なのは言うまでもなありません。しかし退行期骨粗鬆症と診断されるとその後の人生の質を考えた骨折回避のため薬物療法を選択せざるを得ないのが現状です。

薬物療法の原則はそれぞれの病態、骨代謝回転に応じた薬剤を投与することです。I型骨粗鬆症に対しては骨吸収亢進の抑制を目指して骨吸収抑制作用を有する薬剤(カルシトニン、ビスホスホネート)やエストロゲンの補充療法を主として用い、II型骨粗鬆症に対しては骨形成の低下を改善を目指して骨の代謝回転を刺激するといわれている活性型ビタミンDが用いられることが多いです。しかしながら、決定的な骨形成促進薬は未だ臨床応用されてないのが現状です。

以下に現在使われている薬剤について概説します。
カルシウム剤:カルシウムの吸収はビタミンDの刺激によって上部腸管で行われ、カルシウムの摂取不足は大腿骨頸部骨折の危険を増します。加齢と共に腸管からのカルシウム吸収率は低下するため、これを補う目的で、腸管からの吸収が最もよいとされている乳酸カルシウムが主に用いられています。厚生省の閉経後婦人の推奨値は一日800mg/日の摂取です。

エストロゲン:閉経後骨粗鬆症の治療の第1選択はエストロゲンの補充です。エストロゲンは閉経後の骨量減少を防止し骨量を増加させると共に、骨折頻度を減少させることは間違いのない事実であり、閉経後経過が長い80歳以上の症例に対しても効果を示します。問題は副作用であり、長期間の補充治療は子宮内膜や乳腺の癌発生率を増加させることが報告されています。子宮内膜癌の発症はプロゲスチンの併用により抑制されますが、乳癌の頻度は併用によっても減少しないとされています。従って常用量の半量程度をプロゲスチンと持続的に併用する投与法が推奨されています。また、骨に特異的に作用し副作用の少ないSERM (selective estrogen receptor modulator)であるラロキシフェンやタモキシフェンも臨床応用に向けての開発が進んでいます。

活性型ビタミンD:欧米では主として不活性型のビタミンDがCa製剤との併用で用いられることが多いのに対し、わが国では1α水酸化ビタミンDおよび1,25水酸化ビタミンDが汎用されています。骨量増加作用はそれ程大きくないですが、骨折防止効果が強いことが特徴です。本薬剤は、とりわけ活性型ビタミンD濃度や腸管カルシウム吸収の低下を伴う老人性骨粗鬆症患者などに有効と考えられますが、閉経後骨粗鬆症患者に対しても有効性を示されています。

ビスフォスフォネート:主に骨基質中のハイドロキシアパタイトに吸着します。近年生物学的効果も指摘されており、骨吸収により溶出し破骨細胞による骨吸収を強力に抑制します。ビスフォスフォネート系の薬剤の中では、第1世代のエチドロネート(ダイドロネル)が骨粗鬆症治療薬として使用されています。大量のエチドロネートの投与は骨石灰化を抑制する二面性があり3ヶ月間に2週ずつ内服する間欠投与が行われています。エチドロネートの投与により最初の1年間に急速な骨量増加が認められた後、5年以上にわたり骨量は増加を続け骨折頻度も減少することが示されています。エチドロネートより強力な骨吸収抑制作用を持続する第二世代のビスホスホネート(ボナロン)製剤も続々と開発されており、中でもalendronateは強力な骨粗鬆症の治療薬です。

カルシトニン:カルシトニンは破骨細胞の受容体に直接作用して骨吸収を抑制するホルモンです。カルシトニン製剤としては、ウナギやサケのカルシトニンが合成され、現在我が国で認可されている投与量では明確な骨折予防効果は示されていませんが、骨吸収抑制による骨量増加作用と骨粗鬆症に伴う疼痛の改善効果が認められています。カルシトニン製剤の問題点としては、注射薬であり週1〜2回の筋注が必要であること、長期使用により効果が減弱する(エスケープ現象)ことなどがあげられます。

ビタミンK:非コラーゲン性の骨基質タンパクであるオステオカルシンのGra化を促進しますが、骨への作用機序の詳細は不明です。動物実験で骨吸収を抑制すると共に骨形成に対しても促進的に作用することが示されています。

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