T.概 要
■定義
膿疱性乾癬(汎発型)は、急激な発熟とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する稀な疾患である。病理組織学的にKogoj 海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する。尋常性乾癬皮疹が先行する例としない例があるが、再発を繰り返すことが本症の特徴である。経過中に全身性炎症に伴う臨床検査異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほか、まれに眼症状、二次性アミロイドーシスを合併することがある。
■疫学
全国調査の結果から本邦の膿疱性乾癬(汎発型)の推定患者数は約1,000例であり、毎年、16.5例の推定発症者がある。女性にやや多く(男1: 女1.2)、発症年齢は幼児から高齢者にわたるが、小児期と30歳代にピークをもつ。小児期では女児の罹患が多い。
■病因
遺伝素因を基盤に何らかの誘因により発症するとされているが詳細は不明。病因として、免疫学的炎症反応と表皮角化細胞増殖シグナルの異常という両面からの研究が進められている。膿疱形成を特徴とする全身性炎症反応には、好中球の活性化と遊走、発熱を促すサイトカインの関与、サイトカイン産生を規定する遺伝的背景が存在することが示唆されている。
■臨床症状
膿疱性乾癬(汎発型)の病型には、急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)、小児汎発性膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹と稽留性肢端皮膚炎の汎発化が含まれる。
急性期症状は、前駆症状なしに、あるいは尋常性乾癬皮疹が先行し、灼熱感とともに紅斑を生じる。多くは悪寒・戦慄を伴って急激に発熱し、全身皮膚の潮紅、浮腫とともに無菌性膿疱が全身に多発する(図1)。膿疱は3〜5mm大で、容易に破れ融合し、環状・連環状配列をとり、ときに膿海を形成する(図2)。爪甲肥厚、爪甲下膿疱(爪甲剥離)、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、ときに結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全、悪液質や腎不全を併発することがある。
慢性期には、尋常性乾癬の皮疹や、手足の再発性膿疱のほか、非特異的紅斑・丘疹など多様な症状を呈する。急性期皮膚症状が軽快しても、強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎が続くことがある。
■誘因
感染症(特に上気道感染)、紫外線曝露、薬剤(特に副腎皮質ホルモン薬など)、妊娠・月経、低カルシウム血症、ストレスなどが知られている。抗生物質、鎮痛解熱薬によって誘発されることもあるが、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)との鑑別が必要である。また、尋常性乾癬に対する不適切な治療、ことに強カな副腎皮質ホルモン薬治療の中止が発症の誘因になることがある。
■検査所見
病理組織学所見は、表皮肥厚や表皮突起延長に加えて、表皮角層下に好中球性膿疱を認め、その周囲の海綿状膿疱(Kogoj)がみられるのが特徴である(図3)。血液検査所見として、白血球増多・核左方移動、血沈亢進・CRP強陽性・ASLO高値、IgGまたはIgAの上昇、低蛋白血症・低カルシウム血症などが認められる。
■治療
(1)治療法の指針と現状
治療法は、急性期と慢性期で異なり、皮膚症状の改善を目的とするか関節症状などの合併症を目的とするか、あるいは年齢や妊娠の有無を考慮して薬剤選択がなされている(表1)。EBMに基づく治療ガイドライン策定が進行中である。全国調査(1994年)の結果(急性、慢性期を含む)では、エトレチナートの内服が最も高頻度に使用されている(67.6%)。続いてPUVA療法(32.4%)、ステロイド内服(29.5%)、シクロスポリン内服(22.5%)、その他の療法(16.4%)、メトトレキサート(16.2%)、扁摘(8.2%)、シクロスポリン以外の免疫抑制剤(2.9%)の順で治療が選択されている。
(2)各治療法の効果・副作用
全国調査において、著効、有効、やや有効、無効の4段階で各治療法の有効性を調査した結果、エトレチナートが有効性79.4%(著効+有効)と最も優れており、続いてステロイド、シクロスポリン、メトトレキサートはほぼ同等の効果(60%)を示していた。副作用の頻度はエトレチナートにおいて最も高く(38.8%)、続いてシクロスポリン(30.9%)、ステロイド(26.4%)、メトトレキサート(20.4%)である。
■合併症
急性期の全身性炎症反応症候群(SIRS),capillary leak症候群や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のほかに、本症の15‐20%に関節炎を合併する。まれに結膜炎、ぶどう膜炎などの眼症状や、長期に継続する炎症により二次性アミロイドーシスを合併することがある。また,長期の治療に関連した重篤な合併症に注意を要する。
■予後
治癒あるいは膿疱出現が減少した軽快例は、43.0%の患者で認められる。しかし、膿疱出現をくり返す例や、膿疱出現が増加した再発例も多く、これに尋常性乾癬に移行した例と死亡した例を加えると、約半数の症例は同程度の再発をくり返すし、難治といわざるを得ない。2回の全国調査(1989年、1994年)において、208例の汎発性膿疱性乾癬患者中10例(第1回目調査)、244例中7例(第2回目調査)の死亡患者の登録があり、稀ながら不幸な転帰をとる症例が存在する。死亡統計では、4.2例/年で、55歳以上の男性に多い。海外の報告では、死因として悪液質、心血管系異常、アミロイドーシス、メトトレキサート合併症などの報告がある。
A皮膚症状の評価 | 紅斑、膿疱、浮腫(0−9) |
B全身症状・検査所見の評価 | 発熱、白血球数、血清CRP、血清アルブミン(0−8) |
重症度分類(点数の合計) | 軽症(0-6) |
中等症(7-10) | |
重症(11-17) |
高度 | 中等度 | 軽度 | なし | |
紅斑面積(全体)* | 3 | 2 | 1 | 0 |
膿疱を伴う紅斑面積** | 3 | 2 | 1 | 0 |
浮腫性紅斑面積** | 3 | 2 | 1 | 0 |
スコア | 2 | 1 | 0 |
発熱(℃) | 38.5以上 | 37以上38.5未満 | 37未満 |
白血球数(/μL) | 15,000以上 | 10,000以上15,000未満 | 10,000未満 |
CRP(mg/dl) | 7.0 以上 | 0.3以上-7.0未満 | 0.3未満 |
血清アルブミン(g/dl) | 3.0未満 | 3.0以上-3.8未満 | 3.8 以上 |
1) 皮疹に対する疾患特異的治療 (1)内服療法:エトレチナート(チガソンR )、シクロスポリン(ネオーラルR )、副腎皮質ステロイド、メトトレキサートなど。 (2)外用療法:副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3外用剤など。 (3)光線療法:PUVA療法、narrowband UVB療法など (4)その他:扁桃摘出、抗TNF-α療法(本邦未承認)、他の生物製剤(未承認) 2) 他臓器合併症に対する治療 (1)関節炎:強直性脊椎炎をふくむリウマトイド因子陰性関節炎を合併する場合には、関節リウマチに準じた治療が必要である。 (2)眼症状(結膜炎、ぶどう膜炎、虹彩炎):全身療法とともに眼科的治療を施行。 (3)続発性アミロイドーシス:慢性関節炎により、二次性アミロイドーシスを発症し、腎不全や心不全をきたすことがある。漫然としたNSAIDやシクロスポリン投与が腎不全を助長する可能性がある。 (4)その他:肝障害、呼吸器障害、腎不全への対応。 |