1. 肥満低換気症候群とは
肥満低換気症候群とは肥満と慢性の高炭酸ガス血症を伴うものを言います。同時に低酸素血症も伴います。特に高度の肥満、傾眠傾向、周期性呼吸、チアノーゼ、多血症、右心不全のあるものをピックウイック症候群と言います。本症候群の患者さんは睡眠中に無呼吸を伴うことが多いです。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
明確な有病率は明らかでありませんが、睡眠中に無呼吸発作を来す睡眠時無呼吸症候群の約10%と言われています。睡眠時無呼吸症候群が人口の約3−7%と言われていますので、0.5%前後の有病率と推定されます。
3. この病気はどのような人に多いのですか
肥満のある成人男性に多いと言われています。しかし最近子供の成人病が注目されており、肥満児が本症候群を伴うことがあります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
原因は明らかではありません。肥満の方がすべて本症候群になるとは限りません。呼吸中枢の機能低下が絡んでいると考えられています。肥満の方が呼吸中枢における炭酸ガスに対する化学感受性が低下していますと肺胞低換気を来しやすくなります。肥満があると横隔膜の挙上が生じ安静換気時の肺の容量が小さくなります。特に坐位から背臥位になると安静換気時の肺の容量が更に小さくなり肺胞低換気になりやすくなります。また、肥満があると脂肪沈着が上気道粘膜にも起り気道は狭くなり上気道閉塞が生じやすくなり、睡眠中に無呼吸が起りやすくなります。
5. この病気は遺伝するのですか
遺伝するかどうかについても明らかでありません。しかしながら肥満の体質は遺伝しうるとの報告もありますので本症候群の遺伝の可能性については否定できません。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
肥満に加えまして息切れ、日中の傾眠傾向、起床時の頭痛、チアノーゼが認められることもあります。また、右心不全のある場合には頚動脈怒張、下肢の浮腫が見られます。
夜間睡眠中には大きい鼾が急に静かになり、その後突然大きい鼾が始まるような間歇的な鼾がみられることがあります。鼾が静かになった時が無呼吸発作と考えられます。本人は眠っているのでほとんど気付くことはなく、家族や同室者に睡眠中の呼吸異常を指摘されるのが大部分です。また、睡眠中の異常な体動、頻回なる覚醒、頻尿などが見られます。小児では夜尿症が見られることもあります。
精神的な症状としては記憶力の低下、性格の変化、疲れやすいなどの症状がみられることもあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
内科的治療として注目されているのが、鼻腔持続陽圧呼吸法です。鼻マスクを介して上気道内腔の圧を持続的に5−12cmH20陽圧にして気道虚脱を防ごうとするものです。最近携帯用装置も開発されています。この治療法は現在のところ保険適用になっていないため機器購入は25−30万円の自己負担となっており、重症例について使用されているのが現状です。
外科的療法として口蓋垂咽頭腔形成術による口腔咽頭腔を拡げる手術があります。しかし、超肥満者ではこの手術ができないことがあります。緊急時には気管切開術を行うこともあります。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
肺胞低換気は高炭酸ガス血症に加え低酸素血症も伴いますのでこの両者による影響のため生体にとって重要な臓器に障害がもたらされます。例えば肺動脈圧の上昇、右心不全、体血圧の上昇、不整脈、多血症、腎機能低下、肝機能低下、異常な精神症状などです。重症例では突然死の原因にもなると考えられています。
情報提供者
研究班名 呼吸器系疾患調査研究班(呼吸不全)
情報見直し日 平成20年5月22日
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