難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

若年性肺気腫/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
 肺気腫は基本的には病理学的な概念として扱われ,「明らかな線維化を伴わず肺胞壁の破壊を伴い,終末細気管支より遠位の気腔の異常,かつ永久的拡張を示す状態」と定義されてきた。若年性肺気腫という言葉は,呼吸不全調査研究班にて新たに調査検討しようとしている概念であり,現在までのところ明らかな診断基準はない。現時点では,従来いわれている肺気腫で若年発症のもの,と考えている。一応の目安として, 喫煙者では50歳以下の発症,非喫煙者では60歳以下の発症と考えている。 これは,α1‐アンチトリプシン欠損症,喫煙により肺胞壁の破壊がより強く起こるなどの何かしらの先天的・遺伝的要因が肺気腫の若年発症に 関与しているのではないか,ということを念頭に置いたものである。

 歴史的には,慢性肺気腫は,慢性気管支炎(慢性又は反復性の気道分泌の過剰産生状態)とは次元の異なる定義が与えられていたにもかかわらず,便宜的に慢性閉塞性肺疾患として一括されてきた。そして,これらの臨床的診断を,胸部X線及び一秒率などの肺機能検査を参考にしてつける場合には,ある程度進展した症例を対象にせざるをえなかった。 しかし,完成されてしまった肺気腫は難治性・非可逆性疾患であり,今後は早期の肺気腫の診断・治療,更にはそれの効果的な予防対策が必要になる。特に,高齢化社会を迎えるに当たってはこの必要があると思われる。このような意味で若年性肺気腫,すなわち早期の肺気腫を認識する必要性がある。

 肺気腫は病理学的には以下の3つのタイプに分類される。
(1)小葉中心型肺気腫(centriacinar or centrilobular emphysema)
(2)汎小葉型肺気腫(panacinar or panlobular emphysema)
(3)遠位小葉中心型肺気腫(distal acinar or lobular emphysema)
 しかし,肺気腫は1つの症候群であり,形態学的な肺気腫と機能的に 診断される肺気腫の関係は必ずしも明らかにされていない。

■疫学
 肺気腫の定義に基づく厳密な確定診断は剖検後の病理組織学的検討によらなければならない。日常臨床では,慢性気管支炎・肺気腫ともに臨床的には対症的な治療方針が選択されているので,曖味な病態を対象としていても大きな問題は起こらないと思われるが,厳密な意味で肺気腫の疫学統計を得る場合には問題となる。

 厚生省人口動態統計によれば過去10年間に男性の肺気腫はほぼ直線的に増加している。また,10年前と比較すると,男女ともに80歳代の症例が明らかに増加している。一方,日本病理剖検輯報によると,人口動態統計とは必ずしも一致していない。男性の肺気腫はむしろ横這いか減少傾向を示しており,女性の肺気腫は更に少数例にとどまっている。しか し,10年前と比較すると,高齢者層へ移行していることは人日動態統計と同様である。

■病因
 肺気腫の病因はα1‐アンチトリプシン欠損症など,特殊なものを除いては明らかにはされていない。そして,単一の原因よりも多因子重合と考えられている。遺伝によるα1‐アンチトリプシン欠損症でも,それ単独で発病するというよりは,他の因子が重合して発病すると考えられている。喫煙が最も重要な発症に寄与する因子であることは確かではあるが,発症率は少なくとも愛煙家の10〜15%に過ぎないことから,喫煙以外にも,遺伝的要因,Y染色体,職業的曝露,幼児期の呼吸器感染の既往,大気汚染などの環境要因の重要さが指摘されている。

 肺の基質は主としてエラスチンとコラーゲンよりなり,蛋白分解酵素が過剰になると肺融解により肺気腫が生じるという仮説がたてられている。喫煙による肺気腫発生の機序としては,喫煙によりマクロファージや好中球が呼吸細気管支に遊走してきて,それが破壊されるときに多量の蛋白分解酵素を放出する。

■治療
(1)慢性期の薬物治療,(2)在宅治療,(3)理学療法,(4)栄養管理,(5)急性増悪時の治療,(6)外科治療に大きく分けられる。

(1)慢性期の薬物治療
 気管支拡張剤は閉塞性換気障害に対する改善は軽度であっても,臨床的に呼吸困難に対して効果が認められることが多いので用いられている。抗コリン作動薬,β2‐刺激剤,テオフィリン,ステロイド剤が使用されている。また,気道分泌が多い症例においては去痰剤を併用する。

(2)在宅治療
 在宅酸素療法は生命予後のみならず,生活の質(QOL)をも改善することが認められ,呼吸不全症例(動脈血液ガスPO2が60mmHg 以下)及び呼吸不全に至らなくても呼吸困難の強い症例に対して実施されている。更に炭酸ガス蓄積を伴う重症な症例には在宅人工呼吸療法も実施されている。

(3)理学療法
 生活指導として禁煙・心身の鍛練,呼吸リハビリテーションとしては呼吸運動療法,喀痰の多い症例では体位ドレナージが行われており, QOLの改善に役立っている。

(4)栄養管理
 肺気腫症例では,蛋白・エネルギー・アミノ酸栄養障害が高率に存在し,閉塞性換気障害や呼吸筋障害と密接に関連する呼吸器悪液質の病態が呼吸不全の増悪因子であり,また予後因子であることが明らかにされつつある。これに対する分岐鎖アミノ酸強化エレメンタールダイエット経口栄養補給療法により,自覚症状及び栄養状態の改善を認めている。

(5)急性増悪時の治療
 急性増悪の誘因として感染・気道攣縮・右心不全が注目されており, これらに対する治療及び酸素療法が必要となる。

(6)外科治療
 肺気腫において多発する嚢胞を縮小させることで,生理的死腔を減少させ,更にそれに伴って肺全体の容積を減少させることで,横隔膜や肋間筋の運動制限を軽減し,呼吸状態を改善することを目的とした外科療法(volume reduction surgery)が行われ良い成績をあげている。

■予後
 肺気腫を診断した時点での重症度により予後が異なってくる。在宅酸素療法を開始した時点からの慢性閉塞性肺疾患の生存率は5年生存が男性で42%,女性で53%と決して良くない。予後を規定する因子としては, 一秒率及び一秒量の低値,低酸素血症,肺性心の存在,肺活量の低値, 低栄養状態,運動耐用能の低値などがあげられている。特に低酸素血症は重要で,これを是正するために長期在宅酸素療法が実施されており, 生命予後の改善,生理機能及び精神機能の改善などが認められている。


呼吸不全に関する調査研究班から

若年性肺気腫 研究成果(pdf 22KB)
 この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 呼吸器系疾患調査研究班(呼吸不全)
情報更新日 平成14年6月1日

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