難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

副腎低形成(アジソン病)/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 副腎低形成(アジソン病)とは
副腎皮質は3層の構造よりなり、球状層からはミネラルコルチコイドであるアルドステロンが、束状層からグルココルチコイドであるコルチゾールが、網状層から副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とその硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)が分泌されている。慢性副腎皮質機能低下症は、これらのステロイドホルモン分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態であり、副腎皮質自体の病変による原発性と、下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌不全による続発性に大別される。原発性の慢性副腎不全は1855年英国の内科医であるThomas Addisonにより初めて報告された疾患であることから、Addison病とも呼ばれている。その後、この原発性慢性副腎皮質機能低下症の病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎皮質過形成症、先天性副腎低形成、ACTH不応症などが同定され責任遺伝子も明らかにされてきたことから、アジソン病は後天性の成因による病態を指し示し、先天性のものは独立した疾患単位として扱われるようになった。

  図1:原発性副腎不全の成因


2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
我が国で行われた全国調査(厚生労働省特定疾患内分泌系疾患調査研究班「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)の報告によるとアジソンの患者数は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代を追うごとに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は、約12.500出生に一人とされている。

3. この病気はどのような人に多いのですか
アジソン病は、主に成人にみられ、一方先天性ものは主に小児期に発症がみられる。アジソン病のうち結核性の原因によるものは40〜60歳に多く、男女比では男性に多い。特発性のものでは発症年齢は広く分布して、性差はない。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するT型(HAM症候群)は、小児期から発症がみられる。先天性副腎低形成症は新生児期〜乳児期にかけて発症が多くみられる。X連鎖性ものは男子に限り発症がみられる。

  図2:小児(男児)における副腎不全の年齢別成因


  図3:小児(女児)における副腎不全の年齢別成因


4. この病気の原因はわかっているのですか
アジソン病の病因は、感染症あるいはその他原因及び特発性に分類される。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性や後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。特発性アジソン病は自己免疫性副腎皮質炎による副腎皮質低下症であるが、しばしば他の自己免疫性内分泌異常を合併し、多腺性自己免疫症候群と呼ばれている。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するT型(HAM症候群)と、アジソン病に橋本病を合併するU型(Schmidt症候群)がある。特発性アジソン病では抗副腎抗体陽性のことが多く(60〜70%)、ステロイド合成酵素のP450c21, P450c17などが標的自己抗原とされている。その他癌の副腎転移、代謝異常などによる副腎の変性・萎縮を起こす副腎白質ジストロフィー、Wolman 病などがある。


先天性のもので原発性を呈するものとして副腎の発生・分化に関わる異常により副腎欠損を呈するDAX-1やSF-1遺伝子異常による先天性副腎低形成症、DAX-1遺伝子を含む大きな遺伝子欠失のために近傍のデユシャンヌ型筋ジストロフィー遺伝子やグリセロールキナーゼの欠損を伴う隣接遺伝子症候群、副腎皮質低形成を起こすものとして副腎におけるACTH不応症の原因としてACTH受容体遺伝子異常、MRAP異常とALADIN遺伝子欠損によるTriple症候群(Allgrove症候群)がある。その他原因は不明であるがIMAge症候群(子宮内発育不全、骨幹端異形成、停留精巣・小陰茎などの外陰部異常、副腎低形成)がある。続発性ものとして下垂体の発生に関与する遺伝子欠損(PROP1, HESX1, LHX4, TPIT, GLI2など)やACTH合成異常によるものがある。

5. この病気は遺伝するのですか
先天性のものは遺伝する。X連鎖性先天性副腎低形成症は男子のみに発症がみられ母親は保因者となる。ACTH不応症は常染色体劣性遺伝形式をとる。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
アジソン病
副腎皮質ホルモンの欠落により、易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などがみられる。食欲不振、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、精神症状(無気力、不安、うつ)など様々な症状を訴える。いずれも非特異的な症状である。色素沈着は皮膚、肘や膝などの関節部、爪床、口腔内にみられる。

  図4:アジソン病の症状と検査所見


副腎低形成症

・X連鎖性(DAX-1異常症)

嘔吐、哺乳不良、色素沈着、低血圧、ショック症状などで発症する。
副腎不全症状は新生児期に発症するものがほとんど(60%)であるが、なかには幼児期や学童期に発症する例(40%)が存在する。思春期年齢になっても二次性徴の発達がみられない(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合併する)。また精巣での精子形成は障害される。

・ 常染色体性(SF-1異常症)
副腎不全を呈する例は稀で、主に性腺形成不全による症状、XY女性と二次性徴発達不全を呈する。

・ IMAge症候群
子宮内発育不全、骨幹端異形成症、外性器異常(小陰茎、停留精巣)と副 腎低形成を合併する。

・ ACTH不応症
グルココルチコイド、副腎アンドロゲンの分泌不全による症状がみられる。
多くは新生児期に発症する。嘔吐、哺乳不良、皮膚色素沈着がみられる。
また新生児黄疸が重症・遷延化することもある。低血糖がみられる。なかに高身長を呈する患者もいる。

・ Triple A症候群(Allgrove症候群)
ACTH不応症に無涙症(alacrima)とアカラシア (achalasia)を伴う。精神運動発達遅滞、構音障害、筋力低下、運動失調、自律神経障害などがみられる。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
不足するステロイドホルモンを補充する。急性副腎不全の発症時には、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの速やかな補充と、水分・塩分・糖分の補給が必要であり、治療が遅れれば生命にかかわる。その後も生涯にわたりグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの補充が必要である。新生児期・乳児期には食塩の補充も必要となる。
治療が軌道に乗った後も、発熱などのストレスにさらされた際には副腎不全を起こして重篤な状態に陥ることがあるため、ストレス時にはグルココルチコイドの内服量を通常の2〜3倍服用する。適切な治療が行われれば予後は比較的良好である。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対しては、hCG-HMG療法あるいはテストステロン療法が必要となる。これらの治療により二次性徴は順調に進行するが、精子形成能を獲得することは困難である。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
副腎機能の回復は期待できないので、グルココルチコイドによる補充療法を生涯にわたって続けることにより症状もなく良好な一生を過ごすことができる。グルココルチコイドをストレス時に増量しなかったり、服用を忘れたりするとショックを起こし、生命の危険となる。適切な治療が行われれば予後は比較的良好である。


情報提供者
研究班名 内分泌系調査研究班(副腎ホルモン産生異常)
情報更新日 平成19年7月31日

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