難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

副腎酵素欠損症/診断・治療指針

特定疾患情報

21水酸化酵素欠損症

■概念・定義

 本症は副腎において17‐ハイドロキシプロゲステロン,あるいはプロゲステロンからそれぞれ11-デオキシコルチゾール,11-デオキシコルチコステロンの合成を触媒する酵素である21ヒドロキシラーゼ(P450 c21)が欠損する疾患である。本酵素の欠損症は常染色体性劣性遺伝を示し,臨床症状に多様性があり重症度の順に塩喪失型,単純男性型,更に遅発型に分類されている。我が国において1989年より新生児マススクリーニングが行われている。

■疫学
 先天性副腎過形成症の約90%以上を占める。発症頻度は約1.5〜2万 人に1人と高頻度で認められ,また女性仮性半陰陽を示す代表的疾患である。

■病因
 本症は21ヒドロキシラーゼをコードとするチトクロームP450c21遺伝子の異常による。チトクロームP450c21遺伝子(A,B遺伝子)はその偽遺伝子であるA遺伝子とともに第6染色体の短腕上のHLAClass III 領域内にある補体第4成分に隣接して存在する。このうちB遺伝子のみ が活性酵素のための情報を有して発現している。A,B遺伝子の塩基配列は遺伝子の隣接領域及びイントロンを含めて98%のホモロジーを示す。

 大きな違いはB遺伝子の第3エクソンの110〜112番目のアミノ酸残基(グリシン,アスパラギン酸,チロシン)をコードする8塩基が欠落していること,及びA遺伝子のATGコドンから25塩基下流にCTGの挿入があることである。A遺伝子ではフレームシフトにより停止コドン(TGA)が入るためA遺伝子から活性のある21水酸化酵素は発現しない。

 このA,Bの両遺伝子が極めて高いホモロジーをもつことは,両遺伝子 間において頻繁に遺伝子組換えにより遺伝情報の交換を起こしているこ とを示唆している。このためB遺伝子にA遺伝子からの欠損変異が挿入される頻度が増加し,本症の発生頻度が高くなっていると推測されている。

 遺伝子解析により様々な遺伝子の異常,遺伝子欠失,変換,点突然変異などが同定されている。B遺伝子の欠失の割合は,欧米では15〜30%, 本邦では10〜15%である。遺伝子の欠失が認められない症例ではA遺伝子に由来する遺伝子変換あるいは点突然変異による異常が同定されている。それ以外にA遺伝子に認められない変異としてB遺伝子の第10エクソンの453番目のProがSerに置換した変異が遅発型に,第6エクソンの292番目のGlyのSerへの変異,第10エクソンの2、675,2、676番目の 2つのG塩基が1つのC塩基に変わる変異が塩喪失型で見い出されている。

 COS細胞による発現系を用いたA遺伝子の各々の変異を検討した成績によると,E3dl,E63a,ERW,E8nonは完全に酵素活性をなくす変異,12g,E41Nは5〜15%の酵素活性を現す変異,ElPL,E7VLは20〜40%の酵素活性を現す変異として同定されている。完全に酵素活性を失わせる変異はそのほとんどがSWに認められ,部分的に酵素活性を減少させる変異ではE41NがSVに,またE7VLがNCに多く分布している。一方12gの変異はmRNAの異常なスプライシングを起こ し第3エクソンに停止コドンを新たにつくり出す変異であるが,SW,SVのいずれにも高い頻度で分布している。

■症状
 21ヒドロキシラーゼは,17‐ハイドロキシプロゲステロン,あるいは プロゲステロンからそれぞれ11-デオキシコルチゾール,11-デオキシコルチコステロンの合成を触媒する酵素である。本症では,この酵素が欠損した結果,コルチゾール及びアルドステロンの産生が障害される。

 酵素障害により17‐OHPが蓄積し,これがP450cl7(CYP17)によ り△4アンドロステンジオン,更にはテストステロンに代謝され,過剰な副腎アンドロゲンが分泌される。この過剰な副腎アンドロゲンによって,出生時より女児において陰核肥大,陰唇の癒合などの外陰部の男性化が起こる。一方,男児においては外陰部は正常であるが,成長促進, 早期の男性化を起こす。

 塩喪矢型(SW)は,上記男性化以外にアルドステロン合成不全によ り低Na血症,高K血症,循環不全を示す重症型で,早期の治療が必要 となる。単純男性化型(SV)は塩喪失症状を伴わないものである。遅発型(NC)は,出生時には無症状であるが,その後に早発恥毛,成長 促進,特に女性では男性化,生理不順などの症状を呈する。

■治療
 本症の治療は,急性期の副腎不全の治療とその後の維持療法とに分けられる。急性期の治療はグルココルチコイド及びミネラルコルチコイド欠乏,脱水,酸血症の矯正,低血糖に対して行われる。補液はグルコース(5〜10%,Na+CI‐1各々90〜130mEq/l)を主成分とし,K+を含まない液を用いる。Nadeficitないし喪失水分量は24〜48時間で補う。ホルモン療法として静注用(水溶性)コルチゾール10〜20mg/kg(最大 100mg)を急速静注し,以後同量を24時間に均等点滴静注する。

 急性副腎不全症状が改善されたのちには適宜,K+を含んだ維持輸液に変更し,このあと経口摂取が可能となれば以下の維持療法にうつる。すなわちコルチゾール100〜200mg/m2/dを分3で経口投与し以後漸減し,3〜4週後に維持療法に移行する。

 維持療法では塩喪失型ではコルチゾール,フロリネフを,生後1歳まで食塩をミルクに混合し投与する。年長児では合成ステロイドを併用することもある。外性器異常(女性仮性半陰陽)に対しては生後2〜3歳頃までに外性器形成術を行う。遅発型についての治療方針について一定の見解はない。

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情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(副腎ホルモン産生異常)
情報見直し日 平成20年4月28日

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