難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

グルココルチコイド抵抗症/特定疾患情報

診断・治療指針

1. グルココルチコイド抵抗症とは
 腎臓のすぐ上部、ちょうど帽子のような位置に存在する臓器、それが副腎です。一般的にはあまり馴染みの無い名前のついた臓器ですが、ここからは糖質コルチコイド(グルココルチコイド)、鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)、および副腎性男性ホルモン(DHEA)が分泌され、このうちグルココルチコイドは人体の生命維持にとって無くては成らないものであり、もしこのホルモンの作用が障害されると、生命維持が脅かされます(特定疾患:アジソン病を参照)。

 この一方で、グルココルチコイドが必要以上に血液中に存在すると、肥満、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、高脂血症などのいわゆる成人病と似た状態に加え、感染症にかかりやすくなったり、抑鬱状態などが出現してきます。これをクッシング病といいます。このため、グルココルチコイドをはじめとする副腎皮質ホルモンの分泌は、下垂体から分泌されるACTHという名前のホルモンにより極めて厳密に調節されています。これをフィードバック機構といいます。

 グルココルチコイドによる生体情報の伝達は次の機構により行われます。脂質に溶けやすいグルココルチコイドは、脂質からなる細胞膜を自由に透過して細胞内に入った後、細胞質(細胞内部で核以外の部分)に存在するグルココルチコイド結合たんぱく質(これを専門的にはグルココルチコイド受容体と呼びます)と結合し、核へと運ばれていきます。核に移動したグルココルチコイドとグルココルチコイド受容体は、生体にとって極めて重要な働きをする多くの遺伝子に結合し、それらを活性化させることにより生命維持をつかさどるわけです。

 グルココルチコイド受容体そのものに異常があると、血液中にグルココルチコイドが正常以上に存在するにもかかわらずグルココルチコイドによる生体の情報伝達が障害され、新生児では生命維持が脅かされます。成人では下垂体でのフィードバック機構の破綻により、本来ならば抑制されるはずのACTH分泌が持続的に高まることにより血液中の鉱質コルチコイド、副腎性男性ホルモンが過剰となり、高血圧、多毛、無月経が生じてきます。これをグルココルチコイド抵抗症と呼びますが、グルココルチコイド受容体そのものに異常があるわけですから、クッシング病の症状は出現してこないのが特徴的です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 グルココルチコイドの作用は生命維持に不可欠であるため、もし重症型のこの病気が胎児に存在すると、出生前後でほとんどの場合死亡しているものと考えられ、正確な発症頻度は不明です。比較的軽症型の場合にのみ発育が可能と思われますが、この場合も極めて稀な病態であり、現在までに世界中で5家系、8散発例が報告されているのみです。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 男女差はありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 いくつかの症例では、グルココルチコイド受容体の遺伝子に異常が見つかっています。この受容体遺伝子の異常により、異常なグルココルチコイド受容体が作られることが原因と考えられています。グルココルチコイドとの結合の障害、核内での他の遺伝子に対する結合能の低下、受容体数の減少などが報告されています。

5. この病気は遺伝するのですか
 家族内に発症した症例が報告されていますが、多くの場合、患者は母体内で死亡するものと考えられます。実際問題としては遺伝性は問題にならないでしょう。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 血液中のグルココルチコイド、ACTHの値が上昇してきます。しかしながら、グルココルチコイド受容体そのものに異常があるわけですから、クッシング病の症状は出現しないか、もしくは極めて軽微なものとなり、臨床的には問題とならないこともあります。これに対し、増加したACTHの作用により、グルココルチコイド以外の副腎皮質ホルモンである鉱質コルチコイド、副腎性男性ホルモンが過剰となり、高血圧、多毛、無月経が生じてくることがあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 残念ながら、現在までに有効な治療法は確立されていません。無症状の場合は特に治療は必要ないこともあります。 副腎皮質機能低下(アジソン病)の症状があるときは、副腎皮質ホルモンを補う必要がありますが、この場合も大量の投与が必要となることがあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 ごく軽症例であれば生命予後は比較的良好と思われますが、正確な診断のついた患者数があまりにも少ないため、正確なところは不明です。


情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(副腎ホルモン産生異常)
情報見直し日 平成20年4月25日

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