機動戦艦ミネルバ/第六章 新造戦艦サーフェイス
IX  リンゼー少佐のサーフェイスも、艦の修理を終えて造船所を出立したところであった。 「今度はどこに現れますかね」 「奴らが今一番欲しがっているものは何だと思う?」 「そうですね……やはり超伝導回路用のヘリウム4ですかね。宇宙空間と違って、この大気中 は消耗が激しいですから」 「それだな。となると一番近い供給プラントは?」 「マストドーヤです」 「よし!そこへ急行しろ」 「了解!」  一足早くマストドーヤに到着したミネルバと補給艦は、ヘリウム4の補給を早速始めた。  ほぼ半分ほどの補給を終えた頃、 「左舷七時の方向に大型戦艦接近中!」 「おいでなすったわね。何はなくとも補給艦の護衛です。砲弾一発、ミサイル一基たりとも当 てさせないで」 「了解しました」 「ここで決着をつけましょう。どちらかが撃沈されるまで戦い抜くのです」  サーフェイスにいつまでも追い回されていたら身が休まらなかった。  不幸にも先に撃沈されたら、後に残された部隊に命運をかける。  再び激しい戦闘が開始された。  厳しい表情のフランソワ。  これ以上の損害を被るのは避けたかった。 「Z格納庫を開けて、アレを出してください」  それを聞いて驚く副長。 「Z格納庫!最後の切り札を使うのですか?」 「最後の踏ん張りどころでしょう。今が使いどころだと思います」 「分かりました」  副長がミサイル発射管室に伝える。 「発射管室、Z格納庫を開いて、次元誘導ミサイルを取り出せ!」  次元誘導ミサイル。  それは、フリード・ケースンが開発した極超単距離ワープミサイルだった。  どうしようもないほどの苦境に陥った時のためにと、搭載された最後の切り札だった。  もちろんミネルバ級の中でも1番艦であるミネルバにしか搭載されていない。 「次元誘導ミサイルを1番発射管に装填しろ!」 「重力探知機による目標着弾点を入力。機関部にセットオン!」 「セットしました!」 「発射体制完了」 「次元誘導ミサイル、発射!」 「発射します!」  ミネルバ発射管から射出される次元誘導ミサイル。  サーフェイス側では驚きの声が上がった。  目の前に迫っていた大型のミサイルが、迎撃態勢に入ろうとする寸前に突然消えたのだから。 「ミサイルが消えました!」 「加速度計は!?」 「重力加速度計からも消えました!!」  すべての計測器からミサイルの痕跡が消滅した。 「どこへ消えたのだ?」  次の瞬間だった。  激しい震動が艦橋を襲う。 「な、なんだ?報告しろ!」 「た、ただいま……」  機関部から報告がなされる。 「超伝導磁気浮上システムに被弾!損害甚大です。浮上航行不能です!」 「なんだと!」  地磁気に対しての浮力を失って、徐々に高度を下げてゆくサーフェイス。 「海に着水します!」 「総員何かに掴まれ!」  激しい水飛沫を上げて、海上に着水する。 「サーフェース、海上に着水。機関部炎上のもよう」  報告を受けて安堵する艦橋要員。 「見事、心臓部をぶち抜いたようです」 「間合いを取って、こちらも海上に降りましょう」  静かに海に着水するミネルバ。  双眼鏡を覗いて敵艦の動静を観察している。 「完全に沈黙したもようです」 「サーフェイスに、十分後に撃沈するからと、敵艦に総員退艦を進言してください」  強大な戦力を相手に持たせておくわけにはいかなかった。今撃沈しておかなければ、回収・ 修理して再戦してくる可能性を排除するためには、海の藻屑とする以外にはない。  敵艦甲板上では、救命ボートが引っ張り出されて、サーフェイスの乗員が乗り込んでいる。 中には直接海に飛び込む者もいた。 「十分経過しました」 「艦首魚雷室に魚雷戦発令!」 「魚雷戦用意!」 「一発で十分でしょう」  救命ボートが、サーフェイスから十分離れたところを見計らって、 「魚雷発射!」  下令する。 「魚雷、発射します」  ミネルバからサーフェイスへと続く海面上に、一条の軌跡が走る。  魚雷が命中して、火柱が上がる。  やがて大音響を上げて沈んでゆく。  沈むサーフェースを遠巻きに見つめながら、 「やられましたね」  救命ボート上の副官のミラーゼ・カンゼンスキー中尉が嘆いていた。 「ああ、ミネルバには幸運の女神がついているようだ」
     
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