真夜中の出来事/今は夜中の三時頃


 今は夜中の三時頃

「羊が一万三千匹……」
 一匹目から数え始めた羊の数もとうに一万匹を超えていた。
 極度の不眠症になって眠れぬ日々が続いていた。
 なのでこうして羊を数えているのだが……。最初の頃は眠るために数えていたのだが、一向に眠れる気配もなく、今ではただ持て余した時間をまぎらすために、羊を数えている。

「羊が一万三千……! ちょっと待て、おまえは一万二千二百五十二番目に出てきたやつだろう!」
 数えながらも羊達の姿を空想するのであるが、時たま様変わりな奴が登場する。
 ほとんどが良く見かける白色の羊であるのだが、真っ黒だったり縞模様だったりする奴が登場する。印象が深いので覚えてしまうのである。
「え? なに違う? 一万二千二百五十二番目の羊は、体毛が縮れていたでしょう、わたしはほらストレートです。う……。確かにそう言われるとそうかも知れないな……。よし、行っていいぞ」
 通行許可をもらえた羊は去っていった。
 気を取り直して、羊を数えるのを再開する。

「一万三千十一匹……。おい、こら!」
 一風変わった羊が登場した。
 大きな身体、大きな口に、大きな耳……。
 まるで童話の赤頭巾ちゃんに登場する狼が、羊の皮を被って登場したみたいだった。
「おまえ、狼だろう?」
 羊は首を横に振って否定した。
 まあ、当然だろうな。
 しかしどう見ても狼である。
 羊達を襲おうとして、追いかけてやってきたに違いない。
「俺の羊達を襲おうとはふてえ奴だ! こうしてくれるわ」
 俺は狼の腹を裂いて、小石を詰め込んで縫い合わせ、放り出してやった。その後狼がどうなったかは知らない。

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか」
 乱舞しながら通過する一団の羊の群れが登場した。
 脇目も振らずに一心不乱に踊りまわりながら進行していく。
 お蔭参りか?
 まあ、たまにはこういう輩が登場しても気分転換にはいいだろう。

「一万五千百三匹……」
 羊を数える所業はなおも続く。

 突然としてスポットライトが照らされた。
 闇から登場したのは、羊のコートを着た羊達。
 羊が羊のコートを着るというのも変なものだが、まあ気にしないでおこう。
 ライトに照らされて優雅に進み出ながら着ているムートンコートを見せびらかしていた。
 ファッションショーか?
 登場する羊達はいずれも美顔揃いのナイスボティーだ。
 軽やかにステップを踏みながら颯爽と歩く姿は訓練のたまものであろう。
 やがてファッションショーも終わる。
 祭りの後には物悲しさが漂うものだ。
 静寂が戻る。

「一万八千一匹」
 今夜も永遠と続けられる羊の数え歌。
 終わりのない世界。

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