真奈美の場合/女体改造産婦人科病院III番外編
(四)
カウンセリングルームで、先生が両親を説き伏せている状況を観察しているあたし達。
「へえ……。先生もなかなかいい事を言うわね」
「そうね。一本筋が通っているって感じだわ」
「そりゃあ、産婦人科の先生だもの。親子関係の始まりである出産に立ち会って、はじめて親となった人々を集めて、親子学級を主催したりするやさしい先生だものね」
看護婦さんが口々に先生を誉めている。
でも当人のあたしにとっては意味慎重な事柄だらけ。
「ねえ、あたしって赤ちゃんなの?」
先生がやたら赤ちゃんという言葉を連句していたので気になって聞いてみた。
「そんなことないわよ。あれは先生が比喩的に使っているだけよ」
「そうそう、だってちゃんと自律して立って歩いているし、言葉も理解して話しているじゃない。完全な記憶喪失でもないしね」
「真菜美に会せていただけませんか?」
「いいですよ。しかし、記憶を喪失していますので、両親が目の前に現われたとなると、混乱して精神的ショックを起こすかも知れません。その当たりの事を考えて言葉を選んでお話し下さい」
「わかりました」
先生と両親が立ち上がった。
「いけない! 部屋に戻らなくちゃ」
あわててナースステーションを飛び出す。
「真菜美ちゃん。廊下を走っちゃだめよ」
背後から看護婦さんの声が掛かるが、そんなの聞いちゃいない。
ぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら、病室へと駆けて行く。
病室に飛び込み、ぱたんと扉を閉めて、扉にもたれかける。息があがっている。
「どうしよう……パパとママが来るわ」
(パパ? ママ? おまえ、そんな呼び方してたのか?)
「わからない……。自然に出ちゃったのよ。たぶん、記憶のどこかに引っ掛かっているんじゃないかな」
(パパ・ママと呼んでいたとしたら、真菜美は両親を愛していたんだろうな)
「どうしてわかるの? あたし、家出してらしいのよ。両親が嫌いで逃げ出したということじゃない」
(先生も言ってただろう。『年頃の娘というものは、父親を毛嫌いする事がままありますが、本当は父親に愛され甘えたいという心象意識の裏返しということがよくあるのです』ってね。よくあるじゃないか、非行少年というものは、親を心配させて自分に振り向かせるために、わざと悪行に走るものだよ)
「そうかしら」
(実は、俺がそうだったんだ)
「へえ、良かったら聞かせてくれる?」
(そうは思っているんだが……思い出せない)
「何よ、それ」
(たぶん、脳が女性化してしまったから、男の俺にはリンクが切れてしまったんだよ。だから記憶として取り出せなくなったんだな。あるいはもうすでに男のだった時の記憶は消去されているのかも知れない)
「それじゃあ、全然使えないじゃない。あ……でも、直人さんはこうして存在しているじゃない」
(記憶はないが、人格だけが残っているっていうところだな。他人からみれば二重人格と呼ぶものがね。今の真菜美だって人格だけしかないんだよ。ただ俺と違って、女性化した脳組織とリンクしているから、身体を自由に動かせるし、これから体験することはすべて真菜美の記憶としてインプットされるわけだ)
ドアがノックされた。
「来ちゃったよお。どうしよう」
冷や汗が流れる。
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