(二十一)お見合い話

「あのお……。お取り込み中、申し訳ありませんけど、わたし達は何で呼ばれたんで
しょうか?」
 里美が口を開いた。
「ああ、君達の事すっかり忘れていたよ。あはは」
「もう……。ひどいです。でも恋人同士感動の再会の場面に居合わせて良かったです」
「君達を呼んだのは、この二人の結婚式を由香里と一緒に挙げようと思ってね」
「え?」
 わたしは驚いた。
 明人……じゃなくて、秀治と結婚式?
 すると秀治がわたしの肩に手を乗せて言った。
「昔の俺、つまり明人と響子は祝言を挙げたけど、婚姻届は出していない。おまえの
戸籍は男だったからな。しかし今のおまえは女になってるし、俺は柳原だ。だから改
めて結婚式を挙げて正式に結婚しようと思う。もちろん婚姻届を出してな。いいだろ?
響子」
「ええ、秀治がそういうなら」
 嬉しかった。
 もちろん反対するわけがない。
 秀治の本当の妻になれるのだ。願ってもないことだ。
 また涙が溢れて来た。
「というわけで、お願いします。響子との結婚式を、英二さんと由香里さんと一緒に
挙げさせてください」
 秀治が頭を下げた。
 他人に頭を下げるなんて、明人だったら絶対にしなかった。組織の力でねじ伏せて
従わせていた。しかし、今は柳原秀治という一介の人間でしかない。
「もちろんですよ。ねえ、英二、構わないでしょ」
「あ、ああ。おまえが良ければな」
「一緒に幸せになりましょう。響子さん」
 由香里がわたしの手を握って微笑んでいる。
「ありがとう、由香里。一緒に」

「あの……。わたしには? お見合いの話しはないんですか?」
 里美が遠慮がちに質問している。自分だけのけ者にされたくないみたいだ。
「ああ、すまないね。今、英二と検討しているからもう少し待ってくれる?」
「じゃあ、いるんですね? お見合いの相手」
「取引先の社長のご子息でね。立派な方だ。受付けやってる君にぞっこんでね。父親
を通じて縁談を持ち掛けてきたんだ」
「やったあ! わたしも結婚できるのね。できればわたしもお姉さんと一緒に結婚式
挙げたいな」
「それは無理よ」
「どうして?」
「あなたにはご両親がいるじゃない。まずその説得が先なんじゃない? 女性に生ま
れ変わったこと、まだ話していないんでしょ?」
「そうだった……」
「わたしは、みんなに幸せになってもらいたい。誰からも祝福されて結婚してもらい
たい。親がいるなら式にも出席して欲しい。だから里美はご両親に会って今の自分を
正直に話すのが先決だ。そうしたら、改めてその人を紹介しようと思う」
「でも……。説得できるかな……。それにわたしが息子だったなんて信じてくれるか
しら」
 里美が、泣きそうな顔をしている。
 そんな顔を見るのはわたしだって辛い。
 里美は、元から十分女性として通用するほどのきれいな顔していた……らしい。直
接見たわけじゃないから……上に、ハイパーエストロゲンで、今では同じ女性でさえ
ため息を覚えるほどの社内一の美人受付嬢になっている。そんなにも美しい女性が目
の前に表われて、あなたの息子です、と告白されてもとうてい信じてくれないだろう
と思う。
 わたしと由香里が、段階的に女性への道を踏んできたのに対し、里美はいきなり突
然女性ですものね。未だに男性と女性の境界線にあって、完全には女性には成りきっ
ていない。それが両親への告白に踏み切れないジレンマになっているみたい。
 はやく割り切って、精神的にも完全な女性になってしまえばいいのにね。
 英子さんも罪なことしたものね。
「いいわ。わたしが一緒に、ご両親のところに付いていってあげる。真実を告白しま
しょう」
「いいの?」
「あたりまえよ。妹一人だけで行かせるわけにはいかないわ」
「ごめんね。本当はあたしも付いていってあげたいけど、あたしの両親と親族との打
ち合わせがあるから……」
「ありがとう、由香里。気持ちだけで十分よ。わたしは、お姉さんさえ付いて来てく
れれば大丈夫だから」
     
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