特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(十二)真実は明白に 「そうか……そういうことだったのか……以前の真樹だったら酌なんかしなかったは ずだからな。それでもアメリカに行って心境が変わったのだろうかと思っていた」 「申し訳ありませんでした。真樹さんの振りをして騙していました」 「この娘は、悪くないんです。わたしがお願いしたんですよ。あなたがこの娘を区別 できるか試したんです」 「いや、すっかり騙されたよ。全然気がつかなかった」 「でしょう? わたしも、この娘が告白するまで判らなかったんですからね」 「うーん……。ほんとうに瓜二つだよ。誰がどこから見ても、真樹にしか見えないだ ろうな」  と改めて真樹の容姿を確認するように眺める父親。 「それで、おまえはどうするつもりなんだ?」 「もちろん、このまま一緒に暮らしますよ。この娘は、真樹なんですから。黙ってい れば気づかれなかったのを告白してくれたんです。憎まれ蔑まれるかも知れないのを 覚悟の上で、真樹が死んだ事を報告するために、わざわざ来てくださったんです。こ の娘は正直で澄んだやさしい心を持っています。そんな娘を見捨てるわけにはいきま せん」 「そうか……。おまえがそのつもりなら、私も反対はしないよ」 「いいんですか? 一緒に暮らしても……」 「しようがないだろ。聞くところによれば、真樹が死んだのには、この娘に責任はな いんだし、このまま放り出すわけにはいかないだろう。この娘の身体の中に真樹が生 きているというならなおさらだ。それに、すべての臓器の移植が何の支障もなく成功 しているということは、真樹のヒト白血球抗原・HLAが完全に一致していると言う 事。つまりこの娘と私達は、元々血縁的に繋がりがあるということだ。何せ非血縁者 での一致率は数百から数万分の一なんだ。HLAで血液鑑定すれば間違いなく親子関 係にあると断定されるはずだ。臓器移植に関わらず私達の娘と言っても過言じゃない ということさ」 「その通りです。この娘が将来結婚して子供を産めば、真樹の子供、わたし達と血の 繋がった孫になるんですから」 「ならいいじゃないか。私も、一緒に酌み交わす相手が欲しかったんだ。さあ真樹、 お父さんと呼んでくれ、そして一緒に飲もう」  とビールを差し出した。 「はい……頂きます。お父さん」  そのビールをコップに受け取る真樹。  涙の混じったそのビールはほろ苦かった。
     
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