ドラキュラ X

(一)謎の女性


 わたしは駐在所に勤務する警察官だった。
 そうあの日までは……。

 あの日。
 当直勤務で駐在所にある時だった。
 一人の女性が駆け込んできた。
 それは、異様な光景だった。
 見目麗しき女性なのであるが、着ているものがおかしい。
 というよりも、明らかに男性物の衣服だったのだ。
 しかもあわてて着込んだ感じで、乱れに乱れていた。
「どうなさったのですか?」
 もしかしたら強姦にでもあったのかと疑っていた。
 さもなくば暴漢に衣装を奪われてその衣装を着込んで逃げていった。しかたなく代
わりに暴漢が着ていた服を……。そんな感じにも受け取れた。それが本当なら、いか
にも変態な暴漢ということになるのだが。
「あの、僕はどんな風に見えますか?」
 確かにそう言ったのである。
 女性なのに僕というのが変だった。
「どんな風にと申しますと?」
「あの……。男に見えますか? それとも女に見えますか?」
 変なことを聞く女性だと思った。
 まさか女装でもしているのかと思ったが、どう見ても本物の女性だった。
「女性でしょう?」
 正直に答えると、
「や、やっぱり……そうなんですね。女になってしまったんですね」
 女になってしまった?
 どういうことなのだろうか、ともかく話を聞いてみないことには進まない。
「事情を話していただけませんか?」
「じ、実は……」

 それはとても信じられないことだった。
 その女性は、ほんの数時間前までは男だったというのだ。
 飲み会の帰りに出会った女性と意気投合して公園の茂みに隠れてやってしまった。
 事が終わって、気がついたら女性に変身してしまっていたというのである。

 たとえそれが本当だとしても、わたしにはどうしようもなかった。
 公園でやってしまったというのには、いささか問題はあるものの、意気投合してと
いうのなら取り立てて騒ぐこともないし、強姦されたというのでもないのならそれ以
上どうしようもない。
 一応相手は女性ということで、パトカーで自宅まで送り届けたのであるが、しばら
く家の前で立ちすくんでいた。入るのを躊躇しているようだったが、意を決したよう
に中へ入って行った。
 それからどうなったのかは知らない。
 さて駐在所に戻って警務日報に書こうとはしたものの、こんなこと正直に書けたも
のではなかった。
 適当にごまかして置くことにした。