第十章・漁夫の利
V  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉  艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉  レーダー手=フローラ・ジャコメッリ少尉  通信士  =モニカ・ルディーン少尉  副司令官 =ダグラス・ニックス大尉  副官   =ジェイク・コーベット准尉  惑星クラスノダールがアルビオン共和国艦隊によって奪われた報は、すぐさまサ ラマンダーのトゥイガー少佐の元へと届けられた。  おりしも開拓移民船との合流を果たした時だった。 「戦艦セント・ビンセント号が多少の損傷を受けたようですが、全艦無事に撤退を 完了したようです」 「ニックス大尉は、判断を間違えなかったようだ」 「味方艦隊と合流できるのは八時間後の予定です」 「奴らは、『クラスノダールは元々自分らの惑星だから返してくれ』とかいう言動 を見せていましたね。サラマンダー以下の三隻が離脱して戦力が少なくなったのを 見て、実力行使にでたようです。弱みを見せれば寝首を掻く、油断ならぬ国家です な」 「ともかく、彼らは明確に敵対行動を示したということだ。今後は遠慮 なく戦闘行為を行える。で、本国はどう言っているか?」 「開拓移民船も向かっていることだし、奪還せよということです」 「まあ、そう言うだろうな」 「三時の方向に感あり! 接近する物体あり!」  レーダー手のジャコメッリ少尉が、緊張した声で警告した。 「未確認艦です。高速で接近中!」 「警報発令!」  すかさず艦長のヤンセンス大尉が下令した。  警報が鳴り響き、艦内を持ち場へと走り回る乗員達。 「どこの艦艇だ?」 「識別信号確認できず。味方艦ではありません」 「アルビオン軍は、しばらくクラスノダールから動かないだろう……となるとミ ュー族艦隊か?」 「たぶんそうでしょうね」 「一応相手方と連絡を取ってみてくれ」  通信士のモニカ・ルディーン少尉が、通信を試みるが、 「応答ありません」 「相変わらずだな」  さらに接近を続ける敵艦隊。 「敵艦隊射程距離に入りました」 「よし、撃て!」  一条の軌跡を引いて、原子レーザーのエネルギーが敵艦に襲い掛かる。  かと思われた時、敵艦の姿が消え去った。  光の帯は虚しく深淵の漆黒の彼方へと見えなくなった。 「敵艦、直前にワープしたもよう」 「これは、まさか!」  ジョンソン副官が叫ぶと同時に、艦体が激しく震動した。  立っていた者のほとんどが床に倒れていた。 「何が起こった?」  軽い脳震盪を起こしたのか、頭を押さえながらゆっくりと起き上がるジョンソン 准尉。 「後方七時の方向に、敵艦出現!」  背後を取られて動揺するオペレーター達。  敵艦は、容赦なくサラマンダーの砲塔めがけて攻撃を加え始めた。 「迎撃せよ! 砲塔旋回!」  正面を向いていた副砲の砲台が、敵艦を捕えようと旋回する。 「敵艦捕捉!」 「撃ちまくれ!」  艦長の号令とともに反撃を開始する。  攻撃可能な砲塔から、一糸乱れぬ攻撃が続く。  しかし、敵艦に当たる前に消えてしまったのだ。 「敵艦、消失!」 「警戒を怠るな。また、どこかに出現するぞ!」  その言葉通りに 「こ、これはランドール戦法?」 「いや違うな。ワープして敵艦に接近し、後は艦隊ドッグファイトで戦うのがラン ドール戦法だ。しかし奴らは、頻繁にワープを繰り返して位置を変えて攻撃してく る」 「頻繁にワープを繰り返すなんて不可能ですよ」 「それが奴らにはできるようだ」  ランドール戦法もどきにワープを繰り返し、縦横無尽に動き回る敵艦に対して成 す術もないサラマンダーだった。 「ミュー族は、このサラマンダーだけに攻撃を集中しています」 「奴らの目的は、この艦のようだな」 「しかし副砲や舷側の機関砲しか狙ってきません。機関部にも攻撃はありません」 「狙いは原子レーザー砲か?」 「火力も射程距離も、奴らの兵器に比べればけた違いですからね」 「奴らの目的が、この艦の鹵獲と分かった以上、乗員の生命までは奪わないだろう。 艦を動かすにも、兵器を作動させるにも、熟知した乗員が必要だからな」 「つまり我々は、捕虜になるということですか?」 「仕方あるまい。これ以上無駄に戦って、人的被害をだすこともない」 「ランドール提督も、極力戦傷者を出さないように苦慮していましたね」 「奴らの目的はこのサラマンダーだけだ。そうとなったら、我が艦以外は戦線を離 脱して、本隊との合流を急げ!」  開拓移民船を含むサラマンダー以外の艦艇が離れてゆく。  敵艦隊は、それを追いかけることもなくサラマンダー周辺から動かない。 「エンジン停止、投降の意思表示を」  機関停止して、動きを止めるサラマンダー。  降伏を確認したミュー族も戦闘停止して、サラマンダーを取り囲んだ。 「敵艦より入電しました」  早速クリスティンが内容を翻訳して伝える。 「『我に着いてこい』と言っています」 「了解した。と返信してくれ」
     
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