第四章
Ⅴ 決戦  バンゲル星域に近づくトリスタニア共和国艦隊。  戦艦三十隻、巡洋艦十五隻、駆逐艦十五隻、その他十隻、総計七十隻という陣 容であった。  旗艦ヴィクトリア艦橋。  指揮官席に陣取るネルソン提督の指示のもと、艦長アンドレ・タウンゼントが 艦を動かしている。 「前方二千宇宙キロに艦影多数あり! スクリーンに表示します」  レーダー手の声に、ネルソンが下令する。 「全艦戦闘配備!」  副官のローレンス・ヒュームが復唱して、全艦戦闘配備が伝えられる。  正面パネルスクリーンに、バーナード星系連邦を主力とするゴーランド艦隊先 遣隊と、自国艦隊の戦力分析図が表示された。 「敵艦の総数はおよそ八十隻。戦艦二十、巡洋艦三十、駆逐艦十隻、その他補給 艦など二十隻です」 「戦力はほぼ互角というところだな」  ネルソンが呟く。 「遠路はるばるの遠征なので、補給艦を連れてきているようですが、別動隊を編 成して、背後から叩きましょうか? それで何とか長期戦に持ち込められれば勝 てるのではないでしょうか?」  副官が提案する。 「向こうもそう来ると罠を張って、待ち構えているかも知れないぞ」 「隠し玉? だとしたら、中央突破戦法で切り崩しながら、後方にいる補給艦目 掛けて突進するとか?」  不利な戦況を打破するために、色々と思案する副官だった。 「そうだな……。敵の方が数が多い。短期決戦でいくしかないか……防水陣形で 中央突破を図るぞ!」 「分かりました! 防水陣形を取れ!」  自分の提案が採用されて、意気込む副官だった。 「艦隊紡錘陣形!」  艦長のアンドレが復唱する。 「まもなく射程距離内に入ります」 「主砲発射準備!」  砲室では自動装填装置で弾頭が装填され、次弾が弾薬庫から運ばれて、装填機 構部に入る。  照準合わせは、艦橋側でセットできる。 「主砲、発射準備完了しました!」  砲手が艦橋へ連絡する。 『撃て!』  の合図で、発射ボタンを押すだけだ。  弾が発射され、薬莢が排出されると同時に次弾が装填される。  薬莢は電磁石が吸い上げて、廃棄口から宇宙空間に捨てられる。  ちなみにこの時代は、まだ戦艦に搭載できるほどの小型の粒子加速器は発明さ れていなかった。無理に乗せようとしても、その長大なる設備で艦体内のほとん どの容積を潰してしまう。当然、陽子砲や中性粒子砲などはまだ開発されていな い。  なので旧態依然の大砲やミサイルが主力兵器となっている。  今だ未踏破の星域や、未開発の惑星があり、侵略国家の存在もあって、未知の 科学兵器よりも、艦体のどこにでも設置できて簡単に火力を増強できる既存の大 砲やミサイルに限るのである。  双方の艦隊が撃ち合い、戦闘が始まった。  砲弾やミサイルが飛び交う、その間隙が縮まってゆく。 「戦列が交差します」  ついに双方の先頭が鼻突合せての乱激戦の模様となっていた。 「撃って撃って、撃ちまくれ!」  アンドレ艦長が連呼する。 「装甲の厚い戦艦を前面に出せ!」  ネルソン提督は冷静に、状況判断をしていた。  戦艦だけの数でいけば、敵側二十隻に対して味方側三十隻である。戦艦の厚い 壁で押し返そうという判断だ。  戦闘前半戦は、トラピスト側有利に運ばれていた。 「まもなくすれ違いが終わります」  なんとか中央突破に成功して、目前に輸送艦が待機していた。 「主砲を前方の輸送艦に合わせろ!」  副官が小躍りするように叫ぶ。  自分の発案通りに事が進んで調子づいているようだ。  しかし、ネルソンの表情は硬い。  あまりにも作戦通りに進み過ぎるからだ。 「主砲、目標セット完了しました」 「撃て!」  輸送艦への攻撃が開始される。  輸送艦を蹴散らして反転攻撃に回るか、このまま全速力で逃げ出すのもありだ。  順調に輸送艦を撃破しつつ前進するネルソン艦隊。 「撃って撃って撃ちまくれ!」  副官が興奮しながら連呼する。  およそ輸送艦の半数を撃破した時だった。  輸送艦が左右に分かれて道を開けるように動いた。 「なんだ? 逃がしてくれる?」  首を傾げる副官だった。  あり得ない敵の行動には、訳があるに違いないと提督が思った次の瞬間だった。 「前方に新たな艦影確認!」  レーダー手の声に、 「やはり罠だったか……」  呟くネルソン提督。 「太陽系連合王国軍です。敵の艦数、およそ三十隻! すべて戦艦です」  艦橋内に絶望の雰囲気が漂い始めた。  戦艦の数が多いのを頼りに戦ってきたのに、援軍の登場で士気が大下りとなっ ていった。 「提督、どうなされますか?」  これまでイケイケどんどんだった副長の威勢とは思えないほどの自信のなさだ った。 「ここで足掻いても仕方あるまい。このまま全速前進して、正面の艦隊を突き崩 す!」  正面の艦隊だけでいうなら、戦艦は同数の上に巡航艦などもいて戦力は優勢で ある。後方の艦隊には目もくれずに、ひたすら正面突破を図れば戦線離脱も可能 かもしれない。  万が一の可能性ではあるが……。  その頃、アムレス号はとある恒星系の小惑星帯を進んでいた。  その船橋では、新たに乗員となった者たちが、通信やレーダーなどの機器を操 作する任務についていた。 「間モナク、秘密基地ニ到着シマス」  操舵を担当していたロビーが報告する。  基地の位置を把握しているのはロビーだけだ。  小惑星の一つにアムレス号が近づくと、岩盤の一部が開いて進入口が現れた。 「基地ニ進入シマス」  基地内に入り停止するアムレス号。  搭乗口が開いて、乗員が次々と降りてくる。  基地内には、ミサイルや燃料などの補給物資がずらりと並んでいた。 「戦闘機があるぞ!」  彼らが特に喜んだのは、自らがパイロットとして乗り込む戦闘機だった。  駆け寄り乗り込んで、機器類を操作してみる。 「すごいぜ! やっぱり最新型だぜ!」  皆が感動している時、管内放送があった。 『みなさま、これより基地内の補給物資のアムレス号への搬入を開始しますので、 お手伝いをお願いします』  と、アムレス号の搬入口が開いてゆく。 「よし! 皆の者、旧任務に関わる職務に就くがよい。分からないものは、私が 配分する」  長老が指示すると、かつてフライトデッキクルーだった者は、何をすべきかを よく理解しているので、テキパキと段取り良く戦闘機などを運んでいく。  フォークリフトを起動させてミサイルや弾薬を運ぶ係、ロケット燃料を給油口 に注入する係、食料やその他備品を運ぶ係など、各自適材適所に動き出した。  一方、船橋ではアレックスが船の運用に関する蘊蓄(うんちく)を、エダから 教授されていた。  航行や戦闘における操船術を、船主であるアレックスが知っておかなければな らないことは多い。
     
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