第二十四章 新生第十七艦隊
Y  タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少 将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。  これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各 軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置さ れて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それ と同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五 千万人を擁する巨大軍事施設であった。  本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ライ ンを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、 及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。  人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いる アル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊 とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。  艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール 側有利というのが大方の予想であった。 「しかし、どうして皆比較したがるのかね」 「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理で しょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」 「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」 「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に 他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」 「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀 ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実とし て六割が女性士官になっております」 「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦 闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが 動かす今日では男女による体格差は無関係だから」 「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」 「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」  要塞に第八艦隊が到着した。  戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立 った。 「よくいらっしゃいました。先輩」  アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。  アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下 の士官達が一斉に敬礼をほどこした。 「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」  と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。 「どうぞ、遠慮なく使ってください」  その手を握り返すアレックス。 「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」  フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控 えていた。 「フランソワ、ご案内してさし上げて」 「はい。どうぞこちらへ」  指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。 「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」 「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」 「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨 大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはい え、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われている からな」 「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦が メインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将 が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」 「ははは。君は攻撃しか能がないからな」 「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」 「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」
     
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