第二十一章 タルシエン要塞攻防戦
[  その様子は要塞中央コントロールでも見つめていた。 「フレージャーが撃沈しました」 「結局。ランドールには適わなかったというわけか」 「次元誘導ミサイル接近中!」 「かまわん。かたっぱしから撃ち落とせ」 「ミサイルがワープしました」 「だめか!」  再び大きな衝撃が襲った。 「どこをやられたか?」 「ごみ処理区画です」 「射程が短か過ぎたようだな。助かったよ、九死に一生だ」 「しかし、隔壁に穴が明いてしまいました。今そこを攻撃されたら、いくらこの要塞 でも持ち堪えられません」 「スクリーン。要塞外部から被弾箇所を投影」  数秒あって、要塞周縁にあるごみ処分場の一角から爆発の火の手があがるのが見え た。  外部からの攻撃に対して完全防御を満たしていても、内部からの誘爆の圧力を受け てはさすがに持たなかった。  要塞とて小さなブロック片を組み立てて造られている。内部圧力として人間の生き る一気圧に保たれているため、真空との圧力差で外へ向かう定常的な抗力が働くが、 それよりも外部からの攻撃の爆発的圧力に耐えることの方が大切である。ゆえに内部 圧力に関してはあまり考慮に入れられていなかった。  そこへ次元誘導ミサイルの攻撃による爆発的圧力が掛かり、接合部がその衝撃に耐 え切れずに破断し、一部のブロック片が剥がれ飛んでしまったのである。 「工兵隊に穴を封鎖させよ」 「応急処置だけでも最低十二時間はかかります」 「急がせろ、敵は目の前なんだぞ! 守備艦隊を呼び戻すんだ!」 「それでは、敵に易々と次元誘導ミサイルを発射させることになりますが?」 「構わん! どうせ奴らの目的はこの要塞の奪取なのだ。重要施設を破壊するような 攻撃を仕掛けてくるはずがない。次元誘導ミサイルにも限りがあるはずだ。これまで の攻撃の仕方からすれば、せいぜい数発しか残っていないはずだ。敵艦隊の攻撃さえ しっかり守っていれば、要塞が落ちることはない」 「判りました。守備艦隊を呼び戻します」 「要塞内に駐留する艦隊を出撃させますか?」 「別働隊が張り付いている今はだめだ。発着口を開けばそこを狙い撃ちされる、内部 誘爆を招いて身動きが取れなくなる」  その頃、要塞の隔壁の破壊を確認したカーグ編隊。 「よし! 穴が開いたぞ。ただちに突入する」 「了解!」  カーグ編隊全機が合図と同時に投入を開始した。  すでに先行のハリソン編隊の集中攻撃によって、目標地点付近の砲塔はほとんど撃 破されていた。 「ジュリー。ミサイルの安全装置を解除しろ」 「了解。解除します」 「目標接近!」 「照準セットオン。艦の噴射コントロールを同調させてください」 「わかった。噴射タイミングをそちらに回した。後は頼むぞ」 「行きます!」  さらに加速を上げて目標に突撃する重爆撃機。人を載せているがゆえに自走能力が ないミサイルのために、それを重爆撃機に搭載し、急降下爆撃で突撃射出させるとい う前代未聞の作戦。 「最大加速に達した。最終セーフティ解除」 「ミサイル射出!」  懸吊されていたアレックス達を乗せたミサイルが、重爆撃機より投下されてゆっく りと要塞に近づいていく。 「急速反転、離脱する」  ミサイルを放ったカーグの乗った重爆撃が反転離脱していく。   要塞ゴミ処分口に突刺さるように見事命中するミサイル。 「巧くいったわ」 「お見事」 「わたし達の役目は終了した。脱出しましょう」 「まかせとけ」  加速して要塞宙域から脱出する二人を乗せた重爆撃機。 「本隊へ。『赤い翼は舞い降りた』繰り返す。『赤い翼は舞い降りた』以上」  ジミーは音声信号による打電を送信した。  打電はパトリシアにすぐさま報告されることとなった。 「カーグ少佐より入電。『赤い翼は舞い降りた』です」 「成功だわ」 「成功? どういうことですか、先輩」 「第十七艦隊のシンボルとなっている、旗艦サラマンダーのボディーに描かれた動物 は何だったかしら」 「火の精霊サラマンダーです」 「その絵柄は?」 「ええと、赤い翼を持った……え? じゃあ、提督が……」 「その通り。提督が目標地点に無事到達したということ」 「じゃあ、じゃあ。提督が、あの要塞の潜入に成功したのですか?」 「あたりよ」 「信じられません」 「真実よ。でもね、本当の戦いはこれからよ。潜入に成功したとしても、脱出は不可 能。無事作戦を果たすまではね」 「そうですね……」 第二十一章 了
     ⇒第二十二章
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