第二十一章 タルシエン要塞攻防戦
Y  サラマンダー艦橋。 「敵守備艦隊が迫ってきます」  オペレーターの報告を受けてすぐさま指令を出すパトリシア。 「艦隊を後退させてください。これ以上の接近を許してはなりません」 「後退だ。後退しつつ砲火を正面の戦艦に集中させろ。ミサイル巡洋艦を一端後方へ 下げるのだ」  カインズもすぐに応えて、的確な命令を下していた。 「次元誘導ミサイルを撃たせないつもりですね」  パティーが感想を述べている。 「当然だろ。いくら次元誘導ミサイルとて、加速距離が必要だ。間合いを詰めて発射 できないようにするさ」 「敵艦隊、後退します」 「ぬうう……。間合いをとって是が非でもワープミサイルを撃つつもりだな」  フレージャー提督の元にも次元誘導ミサイルの情報が伝えられていた。 「いかがいたしますか。ワープミサイルを発射しないでも、原子レーザービーム砲と いう長射程・高出力兵器のある分、敵の方が幾分有利です。指揮官の搭乗している艦 を狙い撃ちされたら指揮系統が混乱します」 「サラマンダー型戦艦か……ん? 一隻足りない。確かサラマンダー型は五隻のはず だったな」 「はい、五隻です。サラマンダー型はすべて旗艦ないし準旗艦ですので、別働隊とし て動いている可能性があります」 「どうしますか。このまま前進を続ければ、要塞は丸裸同然になってしまいますが」 「かまわん。別働隊がいたとしても数が知れている。要塞自体の防御力で十分防げ る」 「もし別働隊にもワープミサイルが配備されていたら?」 「いや。敵のこれまでの動きからしてそれはないだろう」 「だといいんですが。それにしてもこのまま、一進一退を続けていてはこちらに不利 です」 「わかっている。間合いを詰めるぞ、全艦全速前進」  その状況はすぐさまサラマンダー艦橋に伝わる。 「敵艦隊、さらに前進。近づいてきます」 「間合いを詰めさせるな。加速後進!」  その間にも時刻を測りながら、次ぎの行動を見極めているパトリシア。 「敵要塞からの降伏勧告受諾はありませんか?」 「ありません。完全に無視されています」 「致し方ありませんね。次元誘導ミサイル二号機の準備を」 「了解した」  その時だった。  要塞と守備艦隊との中間点に、第十一攻撃空母部隊が出現したのだ。 「フランドル少佐より入電しました」 「繋いでください」  正面のスクリーンにジェシカが現れた。 『待たせたわね。手はずのほうは?』 「作戦は予定通りに進行中です。次元誘導ミサイル一号機発射完了。敵要塞内で爆発 したもようです」 『降伏勧告は?』 「応答なしです」 『でしょうね。おっと、時間だわ。また後でね』  通信が途絶えた。  空母艦隊から艦載機が一斉に発進を開始していた。  あの中にアレックスがいるのね……。  カラカス基地の時もそうだった。  司令官自らが進んで戦いの渦中に飛び込んで行く。  決して他人任せにせず、部下と生死を共にして戦う。  部下の命を最優先に考える思いが、部下をして命懸けの戦いにも逃げ出さずに、司 令官に付き従うという信頼関係を築き上げてきたのである。  八個艦隊の襲来にもあわてず騒がず沈着冷静に行動し、部下の動揺を鎮めることを 忘れなかった。  逃げるときは徹底的に逃げ、戦うときは徹底的に戦ってこれを壊滅に追い込む。  他の司令官には真似のできないことだろう。ゴードンやカインズとて同じだ。 「ハリソン編隊、攻撃を開始しました」  ついに別働隊による総攻撃が開始された。 「赤い翼の舞い降りらん事を祈ります」  パトリシアは、心の中で祈った。
     
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