第十八章 監察官

 I  アレックスは敵艦隊の新たなる情報を得て、幕僚達を集めて基地防衛の作戦につい て協議することにした。 「さて、以前にも話したとおりだが、連邦軍の総攻撃の詳細が判明した」  その後をレイチェルが補完する。 「その総数は八個艦隊におよび、うち二個艦隊がフランク・ガードナー提督の守るク リーグ基地へ。このシャイニング基地には三個艦隊が向かっているという情報がはい りました」 「三個艦隊!」 「とても数では太刀打ちできない」 「でも提督なら……」  作戦会議初参加のフランソワが言いかけたが、 「馬鹿ねえ。奇襲攻撃で背後を襲うのではないのよ。カラカス基地からシャイニング 基地に至る間に奇襲を掛けられるような要衝となる地域は存在しないわ。防衛戦とな れば正面決戦とならざるをえないでしょ。つまりは数が物をいうのよね」  とジェシカがたしなめる。 「そうなんですか?」 「それでよくも首席卒業できたわねえ。まさかカンニング常習犯ということでもない わよねえ」  新人いびりが好きなジェシカだった。 「う……。ひ、ひどい」  今にも泣き出しそうなフランソワ。 「ジェシカ先輩。新人のいじめはやめてください」 「あらん。楽しみにしているのに……」 「おい。作戦会議中だぞ」  そんなやりとりに粛清を促すゴードン。 「ところでカラカス基地の方は、どうなのですか」  カラカス基地方面の守備を任されているカインズが尋ねた。自分の管轄する基地が どうなるかを知りたいのは当然であろう。 「今の所そちら方面に向かったという情報は得られていない」 「カラカスは銀河乱流の中洲に取り残された恒星系です。そこから共和国同盟に進撃 するには、航行不可能な宙域で囲まれた隧道を通らねばなりません。テルモピューレ 宙域会戦で手痛い敗北を喫した経緯から、無理してそこを通過する危険を冒すことは しないと思われます。結局シャイニング基地方面に転進しなければならない。だった ら最初からシャイニング基地を攻略したほうが得策です。それに軌道衛星砲というや っかいな代物で武装されているからでしょう。たかが無人の装置にたいして多大な被 害が想定できる作戦に艦隊を派遣するわけにはいかないでしょう」  パトリシアが自分の考えを述べた。  これまでの連邦側の行動体系から導かれる方程式から、さらなる推論を加えて熟慮 された答えは誰しもが納得した。 「パトリシアの考えは九割は正しいと言えるだろう。残りの一割にかけてカラカス基 地を陥落させて隋道を強行突破して進撃しないとも限らないが、それを阻止する手立 ては我々にはない。シャイニング基地だけで手一杯だ。両基地のどちらかを選択する となれば、より戦略的価値の高いシャイニングに決まっている」 「それで、残る三個艦隊は?」 「あ、それは補給のための輸送ルート確保や、惑星攻略部隊そして占領後の基地確保 などの後方作戦部隊のようですね」 「どうやら連邦は本気のようだな。後方支援部隊まで連れてきていることは、確実に 基地を陥落して拠点とし、共和国同盟に進軍する戦略だ」  敵側の動静がほぼ確定された。  次に考えるべきことは、味方がどうこれに対処するかである。 「さて、どうしたものかねえ。困ったものだ」  アレックスは呟くが、それが単なる口癖であり、少しも困っていないだろうと推測 する一同であった。すでに作戦の概要を固めているようだ。  しかしだからといってすぐには公表しないアレックスであった。何のために作戦会 議を招集したのか、意味をなさなくなるからである。部下の考えの中にも自分の考え たことよりも優れたものがあるかも知れない。だから、まずは部下の意見から先に発 表させるというのが常だった。  無論、ゴードンたちも重々承知のことだった。  参謀長であるパトリシアが口火を切った。 「こうしてはどうでしょう。ここは一端退いて、クリーグ基地の援軍に回ります。そ れだと丁度二個艦隊同士の決戦となりますし、たぶん敵も我々が援軍に来るなんて知 る由もないでしょうから、敵の背後を突くこともできるでしょう。さすれば敵を壊滅 させることも可能かと。その後でガードナー提督の艦隊と合わせて二個艦隊で、シャ イニング基地に戻って三個艦隊と対峙します。この場合防衛にたつのは敵側、攻撃側 のこちらには作戦的には有利に運べます」 「確かにそうかも知れない。しかし、長距離を往復して休む暇なく戦闘に駆り出され る兵士達の疲労度のことを失念しているな」 「そうか。最初に同数の敵と戦って、休む間もなく引き返して数で優る敵と再び戦わ なければならない……心理的にとてもまともに戦える状況ではありませんね」 「クリーグ基地での一戦目はともかく、シャイニング基地での戦闘は最悪の環境にな る」 「だめですか……」 「いや、作戦の主旨は要点を突いて巧妙だ。諦めるのはまだ早い。もっと練りあげれ ば何か解決策があるかもしれない」 「はい」 「参謀長の意見は再検討ということで、他に案があるものはいないか」  アレックスは一同を見回すが、頭抱えたまま動く気配はなかった。 「うむ……やはり、難しいか」  一同、言葉に詰まっていた。