第十五章 収容所星攻略
\  敵艦隊を撃破して、タシミール星の捜索がはじめられることになった。もちろん哨 戒艇による索敵は続行されている。先の艦隊が舞い戻ったり、新たなる迎撃部隊が出 現しないとも限らないからである。 「揚陸空母部隊を衛星軌道に展開させて下さい。探査機による探査を開始」  敵艦隊はいなくなったものの、地上がどうなっているかは不明である。確認をしな いまま上陸するわけにはいかない。  報告はすぐに返ってきた。 「地上に敵艦隊の姿はありません」  パティーがカインズに尋ねる。。 「どういうことでしょうか……」 「カラカスが奪取されたので撤退したのだろう。たいした資源もないから死守する必 要もないからな」  差し障りのない答えをするカインズ。とっくの昔に撤退していたことを知らされて いたことは内密だ。 「やはり敵は撤退したようですね」  パトリシアが確認するように呟いた。 「揚陸艦を降ろして地上を探索してください。装備として生体感応装置を持っていっ てください」 「了解。生体感応装置を装備します」 「降下部隊用意せよ」 「管制塔などのシステム機器には触れないようにしてください。ブービー・トラップ がしかけてあるかも知れませんから」 「了解」  ブービートラップはランドールのお家芸だ。真似して管制システムなどに手が入れ られている可能性が高い。 「とにかく敵兵に注意しつつ捕虜を探し出してください」  揚陸艦が降下していく。  やがて降下部隊から、報告が返ってくる。 「惑星地上施設に人影なし。敵兵も味方捕虜も一人として見当たりません。生体感応 装置を作動させておりますが、一切の反応がありません」 「地下施設がないかも確認してください。念入りにかつ用心して捜索するように」 「了解!」  しかし、やはり地上には一切の人影を見出すことはできなかった。  その報告を聞いてため息をつくパトリシア。 「しかたありませんね。敵はここを完全に放棄して撤退したと判断するべきでしょ う」 「いかがいたしますか? この星を占領下におくことも可能です」  リーナが発言した。 「その必要はありません。我々の任務は捕虜を救出することでした。捕虜がいない以 上、速やかに撤収するだけです。全艦に撤収準備を」 「了解しました。撤収準備にかかります」 「準備が整い次第、哨戒艇を呼び戻して帰還の途につきましょう」  星を占領下におくためには、通信基地などの諸設備を設置しなければならず、何よ りも制宙権確保のための部隊も必要となってくる。アレックスの部隊にはそれだけの 戦力を割くだけの余力はない。  カインズに向き直って進言するパトリシア。 「作戦任務を完了。これより帰還します」 「うむ……いいだろう」 「了解。撤収準備を発令します」  やがて揚陸部隊が引き揚げてきて、帰途につく第十一攻撃空母部隊。  パネルスクリーンに遠ざかるタシミールが映しだされていた。  パティーがカインズに囁く。 「結局、今回の作戦の意味は何だったのでしょうね。当初目的の捕虜救出は徒労に終 わってしまったという感じですけど。それに、まるで申し合わせたように敵艦隊が現 れて、キャブリック星雲の再来じゃないですか。これってまたニールセンの差し金じ ゃないでしょうねえ」  勘の鋭いパティーだけあって、すでに気づいているようだ。 「そうかも知れないな」  例えそれが事実だとしても肯定はできなかった。ニールセン率いる軍部への不審感 を助長させることは禁物である。軍部の不審は士気の低下につながり、ひいては反乱 を起こす引き金とも成りかねない。バーナード星系連邦との戦争中においての内憂外 患は、それはランドール司令がもっとも危惧する事態である。たとえそれが策略だと 判っていても、勝つ算段がある限り命令に従うを是としていたのである。 「提督が内密にしたのはこれだったのだな」  そう思った。 「今回の佐官昇進試験は合格でしょうか? 当初の目的である捕虜救出は果たせませ んでしたけど、敵艦隊を撃退に追いやりました。それで十分だと思いますけどね」 「まあ、これだけは提督とて意にならないからな。査問委員会がどう決定するかだ」 「でも相手はニールセンですからね。どうなることやら」 第十五章 了
     ⇒第十六章
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