第十三章 カーター男爵
Ⅱ
「男爵の旗艦より発砲!」
「ジュリエッタ皇女が御座します(おわします)艦に対して発砲するとは!」
艦隊司令のホレーショ・ネルソン提督が怒りを顕わにしていた。
「今のを見ましたか? 殿下ご自慢の艦が守ってくれていたようですね」
はじめてみた情景に、皇女が感心する。
「確か、特殊哨戒艇でしたでしょうか。歪曲場透過シールドですね」
「密かにお守りくださっていたとは……」
「とにかく男爵とはいえ、皇女様に刃を向けたとなれば大問題です。
「そうですね。少しおしおきをしなくてはいけませんね」
その言葉を聞いて、ネルソン提督が反応する。
「男爵の艦に対して威嚇攻撃を行う! 随伴艦に当たっても構わん」
さらに副長が呼応する。
「主砲発射準備! 軸線を右へ五度ずらす」
オペレーターがテキパキと主砲発射準備を始める。
「発射準備完了しました!」
ジュリエッタの方を見て、頷くのを確認した提督。
「発射!」
巡洋戦艦インビンシブルから一条の光跡がほとばしり、男爵の艦へと向かう。
男爵の艦の艦橋。
「う、撃ってきました!」
副官の言葉に、怯えとまどう男爵がいた。
光跡は、艦のそばを掠め通って、被害は出なかったが、
「護衛艦に着弾! 被害軽微!」
後続の艦に損傷を与えてしまったようだ。
「引き続き停戦を繰り返しています」
軍事行動において、停戦とは降伏に等しい。
とはいえ相手は正規の艦隊であり、火力差がありすぎる。
勝てる相手ではなかった。
「し、しかたあるまい。停戦しろ」
「了解! 機関停止します」
機関が止まり、艦内を静けさが覆いつくす。
「男爵の艦が停戦しました」
「カーター男爵をここへ連れてきてください」
指令を受けて、一隻の艦が艦隊から離れて、男爵艦へと近づいてゆく。
やがて男爵を連れ出したのだろう引き返してきた艦から、連絡艇が発進してイン
ビンシブルの着艦口にたどり着いた。
数分後、マーガレット皇女の前に引きだされた。
「さて、申し開きを聞こうか?」
厳かに皇女が尋ねる。
すると信じられない言葉が男爵の口から発せられた。
「私は、公爵に命じられて、言われるがままに行動しただけです」
まさしく責任転嫁を羅列しはじめたのだった。
自分は悪くない、すべては公爵の図り事なのだと。
もはや逃げ道はない。
保身のためなら土下座もする勢いだった。