第十二章 海賊討伐
Ⅵ
エルバート侯爵の屋敷に、再びマンソン・カーター男爵が訪れていた。
「先日の件、考慮して頂けましたかな?」
来訪早々に話題を振る男爵。
「何のことかな?」
「我々の派閥に入ることですよ」
「断る!」
きっぱりと言い切る男爵だった。
「断ってよろしいのですかね。身内に不幸が訪れても知りませんよ」
「身内?」
「例えば、お嬢さんがどうにかなるとか……誘拐されるとか、あるかも知れませんよ」
意味深な発言をする男爵だったが、
「誘拐?」
男爵のその一言で、候女誘拐の首班であることを証明できたと思う侯爵。
そこへ入室してくるセシル候女。
「お父様、お客様ですか?」
候女の入室に、驚きを隠せない男爵だった。
「それより、おまえの体調はどうだ? まだ寝ていた方がいいんじゃないのか」
「わたしは大丈夫です。すっかり良くなりました」
「そうか。あんまり無理するんじゃないよ」
「はい。わかりました」
そういうと候女は退室した。
その後ろ姿を見送って、男爵の方に向き直る侯爵。
「で、誘拐とか言っていたようだが……」
「い、いや。何でもありません」
言葉を詰まらせながら、
「も、もう一度お尋ねいたします。我々の派閥を承認してはいけないでしょうか?」
「いや。前々からも言っているように、我が国はあくまで中立を保つ所存であります。公爵さまには、そのようにお伝えください」
摂政派によって行われた陰謀を知らぬふりして応対する侯爵。
逸早く摂政派の陰謀を見抜いて、娘の救出に駆けつけてくれたアレクサンダー皇太子には感謝の一言しかない。
たとえ自分が摂政派に着いたとしても、皇太子にはさほどの影響を与えないだろう。
ロベスピエール公爵が行ったことは、明白なるクーデターである。
国民の支持を受けたわけではない。
精神薄弱で洟垂れ小僧のロベール王子を皇帝に推す者は正直いないだろうし、王子が政治を行えるわけがなく、背後にいるロベスピエール公爵が摂政となるだけである。
中立である事が一番との結論を出した侯爵だった。
「そうですか……、分かりました。公爵にはそのようにお伝えしておきます」
ばつが悪そうに、退室する男爵。
屋敷を出て自分の車に戻った男爵。
「どういうことだ! 娘は誘拐に成功したんじゃないのか?」
誘拐犯である海賊が討伐されたことは、露ほども知らなかったのであろう。
海賊からの連絡が途絶えたことも、報告が上がってはこなかったことを気に留めていたら、このような失態は起こさなかったのだ。
公爵にどんな報告をすれば良いか、頭を悩ますしかなかった。
第十二章 了