第三章 第三皇女

                 I  銀河帝国領内。  今まさに、第三皇女の艦隊が連邦軍先遣隊による奇襲攻撃を受けていた。  貴賓席に腰を降ろす皇女ジュリエッタの表情は硬かった。側に仕える二人の侍女は、 ただオロオロとするばかりだった。 「何としても姫を後方へお逃がしして差し上げるのだ。艦隊でバリケードを築いて、後 方へのルートを確保するのだ」  貴族と庶民との身分の隔たり。こういう状態においてこそ、その人となりが良く判る ものだ。  庶民を人とも思わずに税金を搾り取るだけの存在と考えたり、高慢で貴族であること を鼻に掛けて、庶民を虐げるだけの者は、いざとなった時には誰も助けてはくれない。 庶民達は自分可愛さにさっさと逃げてしまうだろう。  しかし、ジュリエッタを取り巻く人々には、責任放棄する者はいなかった。命を張っ てでもジュリエッタを救うための戦いを繰り広げていた。  気分を悪くした兵士を見かけたら、やさしくいたわり休息を与えたたり、全体が暗い ムードに陥っている時には、レクレーションやパーティーを開いて、士気を高める努力 を惜しまなかった。常に兵士一人一人に対して分け隔てなく気配りを忘れなかった。  ジュリエッタは民衆を愛し、かつまた民衆からも愛されていたのである。 「わたくし一人のために、多くの兵士達が犠牲になるのは、耐え難いことです。わたく し一人が……」 「いけません! 奴らは姫を捕虜にして、自分達の都合の良い交渉を強引に推し進める 算段なのです。かつてアレクサンダー第一皇子が、海賊に襲われ行方不明となった時に も、皇子を捕虜にしていることを暗に匂わせて、十四万トンものの食糧の無償援助と、 鉱物資源五十万トンを要求してきたのです。その後、皇子は連邦軍の元にはいないこと が判明して、交渉はないものとなりましたが……」  貴賓席に深々と沈み込み、自分には何もできないのか? と苦渋の表情にゆがむジュ リエッタ皇女。そうしている間にも、数多くの戦艦と将兵達が消えてゆく。  その頃、急ぎ救出に向かっていたランドール艦隊は、やっと中立地帯を抜け出たばか りだった。 「銀河帝国領内に入りました」 「前方に火炎を認めます」  銀河帝国艦隊と連邦軍先遣隊との戦闘が繰り広げられ、まるでネオンの明滅のような 光景がスクリーンに投影されていた。 「全艦に戦闘配備だ」 「了解。全艦戦闘配備」 「うーむ……。何とかギリギリにセーフといったところか。第三皇女の旗艦は識別でき るか?」 「お待ちください」  指揮艦席の手すりに肩肘ついてスクリーンを凝視しているアレックス。 「双方の戦況分析はどうか?」 「はい。圧倒的に連邦軍側が優勢です」 「だろうな。連邦軍にはつわものが揃っているからな」 「皇女の艦を特定できました」 「奴らの目的が皇女の誘拐であるならば、旗艦を無傷で拿捕しようとするだろうが、流 れ弾が当たって撃沈ということもあり得る。私のサラマンダー艦隊は、旗艦に取り付い ている奴らを蹴散らす。スザンナは旗艦艦隊を指揮して、連邦軍の掃討をよろしく頼 む」 「判りました。旗艦艦隊は連邦軍の掃討に当たります」 「それでは行くとしますか。全艦突撃開始! 我に続け!」  アレックスの乗るヘルハウンドを先頭にして、勇猛果敢に敵艦隊の只中に突入してい くランドール艦隊。
     
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