第二章 ミスト艦隊
XW  衛星ミストの軌道上に浮かぶ軍事宇宙ステーションに近づく小艦隊があった。  アレックスを迎えるために、スザンナが寄こした高速艦隊である。  艦隊はステーションの周囲に待機し、指揮艦と思しき艦だけが入港ゲートへと進行し ていく。  その指揮艦の艦内では、入港に向けてのステーションとの交信がひっきりなしに続い ている。 「艦長。入港許可が出ました」 「よし、入港せよ」 「入港します」  操舵手が答え、艦に制動が掛けられる。 「ステーションより、誘導すると言ってきておりますが」 「丁重にお断りしろ。我が艦は手動制御で入港する。操舵手いいな」 「了解しました。これより手動による入港体勢に入ります」  操舵手に緊張した表情は見られないし、気負った態度もなかった。ごく自然に平然と 答えている。 「サラマンダー艦隊の操艦技術を見せつけてやれ」 「了解」  他のオペレーター達も、自分に与えられた端末を黙々と操作しており、余裕のあると ころを見せていた。  艦体の側面には、真っ赤に燃える火の精霊を配色し異彩を放っている。  暗号名「サラマンダー」を呼称するもう一つの旗艦「ヘルハウンド」が正式称号であ る。  そう……。  アレックス・ランドール提督が、少尉時代に乗艦・指揮し、ミッドウェイ会戦で大戦 果を挙げたあの艦である。  ヘルハウンドはゆっくりと橋梁に近づき、所定の位置から五センチもずれることなく ピタリと接岸した。 「見事だ。さすがに提督が直接指揮したことがあるだけのことはあるな」  ステーションの管制員は感心しきりだった。  タラップが掛けられ、艦長以下の出迎え陣が勢揃いした。  ここで改めて確認することにしよう。  サラマンダー艦隊と言えば、ハイドライド高速戦艦改造II式「サラマンダー」以下の 二千隻の旗艦艦隊だと思っている者が多いが、それは正しくない。  アレックスが初めて独立遊撃艦隊を任され、その旗艦として高速巡洋艦「ヘルハウン ド」が与えられた。その暗号名が「サラマンダー」であるから、艦隊としての行動する 時の暗号名も「サラマンダー艦隊」というのがそもそもの名称のはじまりなのである。 これらの呼称は軍籍簿にも登録されている正式称号であることを忘れてはいけない。  その後に転属してきたレイチェル・ウィングの骨折りで、高速戦艦五隻を手に入れ、 新たに「サラマンダー」と名づけられた艦に、アレックスが乗艦するようになった。し かしながらその時点では、純然として旗艦登録は「ヘルハウンド」のままであった。  高速戦艦サラマンダーが正式に旗艦登録されたのは、アレックスが中佐となり艦隊数 が増強されて以降のことである。しかしながら、ヘルハウンド以下の独立遊撃艦隊はそ のまま残され、アレックスの直属のサラマンダー艦隊として、ヘルハウンドも旗艦登録 されたまま今日に至っているのである。  アレックス配下の全艦隊を総称する時は、ランドール艦隊と呼称するのが正しい。
     
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