第五章 独立遊撃艦隊
I  レイチェルの献身とも思える仕事ぶりによって、第十七艦隊所属独立遊撃部隊はと うとう再編成を完了して、部隊として正式に始動することとなった。  軌道上には二百隻からなる艦隊が集結し、続々と乗組員が搭乗してやがて出動する ことになるその日のために訓練が繰り返されていた。それぞれの艦内では整備が進み、 艤装は着々とはかどっていた。その陣頭指揮には第十七艦隊より派遣されてきた、ガ デラ・カインズ大尉が任についていた。大尉はフランク・ガードナー中佐の配下で、 信頼のおける優秀な将校ということで、アレックスも安心して任せられた。  正式に遊撃部隊の司令官となったアレックスは、部隊の参謀として同窓のゴード ン・オニール大尉を迎えた。彼も二階級特進で少尉から大尉になっていた。  艦隊司令部に一室を与えられたアレックスは、ゴードンを呼び寄せて部隊の今後に ついて協議することにした。レイチェルも一緒である。 「ところで司令官殿。我が部隊は独立部隊として、艦隊とは独立した作戦任務を与え られるそうですね。本当ですか?」  レイチェルが、アレックスに敬意を払いながら尋ねた。 「ああ、本当だ。何せ急造の司令官だからな、他の部隊と連携させる作戦では士気統 制がとれない、他の部隊司令官達から反対があったそうだ」 「簡単に昇進した人間にたいする嫉妬でしょうか」 「まあな。偶然の幸運に恵まれて昇進した司令官との共同作戦にはついていけないだ ろうさ」 「そうですね。何せ、司令官として艦隊を運用した実績がまるでないのですから。敬 遠されてもしかたがないでしょう。くやしいですが」 「まあ、これは艦隊の士気に大いに関わる問題だからな。独立部隊ということにして おけば、作戦に失敗しても一部隊を失うだけだ」 「まるで信用されていませんのね」 「はは、そんなところだな」  ドアがノックされた。  三人はドアの方に振り向いた。 「入りたまえ」  ドアが開き、見慣れた女性士官が入室してきた。  こつこつと軍靴を響かせ毅然とした姿勢で歩み寄ってくる。  やがてアレックスの手前に立ち止まり、踵を合わせ鳴らして敬礼し、自己申告した。 「パトリシア・ウィンザー少尉。本日付けをもって、ランドール司令の副官として着 任いたしました」 「パトリシア!」  アレックスとゴードンはほとんど同時に叫んでいた。  しばし茫然としていた二人にたいして、 「よろしくお願いします」  といってパトリシアはにこりと微笑んだ。 「何だ、君が副官に選ばれたのか。偶然だな」 「偶然もなにも、俺達と違って彼女は首席卒業で特待進級の少尉。独立遊撃部隊の旗 艦艦橋勤務を志望すれば、当然副官に選ばれるのは当然じゃないか」 「悪かったな、中の下で。そうか……席次順で配属希望先が優先的に決められるんだ ったな」 「こうやって三人でいると、士官学校の模擬戦のことを思い出しますね」 「そういえば、そうだな。おっと、紹介するのを忘れるところだった」  アレックスは、レイチェルをパトリシアに紹介した。 「こちらは情報参謀の、レイチェル・ウィング少尉。僕の副官を務めてもらってい る」 「レイチェルです。よろしく」 「そしてパトリシア・ウィンザー少尉。同じく副官だけど、こちらは軍令部から派遣 された正式な副官。そして僕の婚約者でもある」 「パトリシアです。よろしくお願いします」  二人は、握手した。 「なあ、物は相談なんだけど」  ゴードンが切り出した。 「なんだい」 「レイチェルを俺の副官にくれないか」 「レイチェルを?」 「パトリシアは、士官学校を首席卒業するほどの才媛だし、実績も模擬戦の時で知っ ての通りだよな。レイチェルもまた、独立遊撃部隊の再編成の仕事を見てもわかるよ うに、その優秀さは保証済みだよ。何も優秀な副官を二人も独り占めすることはない だろう」 「別に独り占めしているつもりはないが……」 「そこでだ、パトリシアは君の奥さんだし、君のそばにいたくて配属希望で副官とし てやってきたのを、無理に引き離すのは可哀想だ。だから、レイチェルのほうをね」 「私達、まだ正式には結婚していません」 「とはいっても、事実上の夫婦であるには違いなかろう」 「そうですが……」  とアレックスのほうを伺って、彼が首を縦にするのを確認してから、 「はい」  とパトリシアは答えた。 「とにかく、婚約者にとっては、素敵な女性が常時そばについていては、気が散って 仕事にならんだろう」 「こじつけじゃないのか? レイチェルの獲得のための」 「そうかも知れんが、俺は彼女が欲しい」  といってレイチェルを抱き寄せるようにした。 「わかったよ。レイチェル次第ということにしよう。どうだい、レイチェル」  アレックスはレイチェルに二者選択の回答を求めた。 「あたしなら構いませんけれども。パトリシアが副官になるなら、あたしは必要ない と思います。名残惜しい気はしますけれど……」 「決まりだ!」  ゴードンは小躍りして喜んだ。 「そういうわけで、レイチェル。今日までご苦労だった、感謝する。これからはゴー ドンの副官としてその才能を発揮してくれないか」 「はい。今までありがとうございました」 「ま、同じ部隊の参謀だから、いつでも会えるからさ」 「とにかく、二人ともよろしく頼む」  アレックスは手を差し伸べた。 「はい」  レイチェルとパトリシアは同時に答えてその手に自分の手を重ねた。 「さて、さっそくで悪いのだが、今回の作戦について協議したい」 「いきなりですか?」 「そうなんだな、これが」
     
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